研究課題/領域番号 |
20K12675
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
紺野 啓 自治医科大学, 医学部, 教授 (00323139)
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研究分担者 |
山越 芳樹 群馬大学, 大学院理工学府, 特任教授 (10174640)
谷口 信行 自治医科大学, 医学部, 客員教授 (10245053)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | せん断波 / エラストグラフィ / 超音波 / 加振法 / 組織粘弾性 / 可視化 / 標準化 |
研究実績の概要 |
本研究の根幹をなすcontinuous shear wave elastography (C-SWE) 装置については、本研究による試作機の臨床試用とデータの蓄積を経て、共同研究者の元で市販型装置の開発が進み、本年度、β版が完成した(2024年3月)。これは公益財団法人いわて産業振興センターの戦略的基盤技術高度化支援事業「超音波とせん断波の同時可視化による運動器用弾性映像装置の研究開発」として行われたもので、研究者は本年度も引き続き、臨床的立場のオブザーバーとしてこれに参加し、様々な助言を行った。 完成した市販型装置の現時点での適応は運動器に限られる。しかし潜在的には、甲状腺、乳腺、リンパ節、皮膚・皮下組織、血管などの体表臓器をはじめ、肝臓などの深部臓器の評価にも広く応用が可能と考えられることから、本年度の研究では、期間的な制約は大きかったものの、甲状腺と肝臓に対してβ版の試用を試みた。その結果、これらの組織粘弾性評価の実用化には、加振方法、計測条件、表示方法、デバイスの最適化など、ほぼすべての条件を見直す必要があることが明らかとなった。このため現在は本格的な条件の見直しに備えて、従来法による超音波エラストグラフィの基礎的・臨床的データの集積を継続しつつ、条件見直しのための問題点の明確化と、具体的な解決策の模索を行っている。 また上記と平行して、前年度から継続中の、装置および検査の標準化に必要な粘弾性ファントムのブラッシュアップを進めた。 これらの研究成果は論文として報告し、関連学会において発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
今年度は、そのほとんどが市販型装置の開発期間と重なったため、研究の遅滞は不可避であった。今年度末、運動器をターゲットとするcontinuous shear wave elastography (C-SWE) 市販型装置のβ版が完成した。これを受けて、短期間ではあるが、現時点ではまだ数の少ない実機を借り受け、研究者にとっての当面のターゲット領域である甲状腺と、最終的なターゲット領域と想定される肝臓への試用を試みた。しかし、すでに臨床応用されている従来法(shear wave elastography; SWE)による計測結果との間には一部乖離があり、C-SWEのこれらの領域における組織弾性評価の実用化には、加振方法、計測条件、表示方法、デバイスの最適化など、ほぼすべての条件の見直しが必要なことが明らかとなった。今後は順次これらの見直しを進めていく方針だが、本格的生産前の現段階では、実機の入手はほぼ困難であるため、研究は当初の計画通りには進んでいない。現時点では、従来法による基礎的・臨床的知見の集積、装置および検査標準化のための手法の開発や、深部臓器への展開を前提とした各種の探索的研究など、周辺領域の研究に止まらざるを得ない状況が依然として続いている。 また今年度中も継続してみられた、SARS-CoV-2感染症の蔓延も、研究の遅れに少なからぬ影響を与えた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、完成したβ版市販装置をできるだけ早期に入手し、甲状腺に対する臨床応用のための加振方法、計測条件、表示方法、デバイスの最適化など、諸条件の見直しを順次進める。上記と平行して、すでに従来法における臨床的知見の集積が進んでいる肝臓についての検討も進め、従来法に対する本法の優位性を明確にして両者の差別化を図り、新規の手法の開発も含めて、臨床応用に向けた様々な理論の構築と検証を進める方針である。 現在、従来法の様々な手法による基礎的・臨床的データの蓄積から、今後検証すべき有望な新規の手法と評価項目はほぼ絞り込むことができている。これらには、従来法では実現不可能で、本法でのみ評価可能と予想される評価項目も含まれており、これらによる組織粘弾性評価の実現を模索していく。これらは本法の深部臓器応用に際して、特に有用なことが期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、そのほとんどが市販型装置の開発期間と重なったため、本格的な研究推進のための準備段階の、周辺領域の研究に留まらざるを得ず、研究費の使用には限りがあった。今年度末にβ版が完成したことから、今年度分の余剰研究費は次年度に繰り越し、次年度以降、研究を本格的に進めていく必要がある。 上述の通り、β版の甲状腺および肝臓への適用に際しては、装置本体、加振器などのデバイスを領域に合わせてフィットさせること、計測条件を検討して最適化することなど、改良点と検討項目が山積しているため、研究費はこれらの改良と条件決定のための研究に使用する。また、現行の、計測値による定量評価といった従来法の域を出ない評価法に加え、2次元的画像データの解析による定性および定量評価など、新規手法の模索のための研究にも使用する。新規手法の開発には、新たな画像解析システムの構築も必要となるため、その開発にも使用する。
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