研究課題/領域番号 |
20K12688
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
樋口 政和 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任助教 (30570254)
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研究分担者 |
徳野 慎一 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任教授 (40508339)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 認知障害 / デュアルタスク / 音声 |
研究実績の概要 |
高齢化社会において認知症の有病率が増加しており早期発見と予防的治療が重要である。また、認知症の初期症状はうつ病と似ており初期診断が困難な場合が多い。疾患のスクリーニング手法として、MMSEによる認知能力検査が一般的であるが、医師等が行わなければならず手軽とは言えない。これまで申請者らは声から病気を診断する技術の研究を行ってきており、重度認知症の推定も可能にしている。音声による評価はほぼ非侵襲であり簡便に行えるという利点がある。しかしながら、軽度認知障害(MCI)に対してはまだ十分な精度が得られていない。一方、一度に2つのことを同時に行うデュアルタスクが認知症検知に有効という報告がある。そこで本研究では、デュアルタスク時の音声からMCIを精度良く検出する手法を提案することを目的とする。 2023年度は、前年度に引き続き2020年度に取得した高齢者の音声を用いて健常群とMCI群の判別器を提案した。本研究では、計算をシングルタスク、歩きながら計算をデュアルタスクとしており、まずはシングルタスクでの音声からの判別器作成に取り組んだ。100から7を順次引いていく計算を暗算で行いその答えを発声した音声と、その答えを予め紙に印刷しておきそれを単に読み上げた音声を録音した。それらの音声から特徴量を算出し、計算音声からの特徴量と答え読み上げ音声からの特徴量の差分値を用いることで比較的精度の良い判別器を実現できた。学習データに対する正解率は約90%であり、交差検証の正解率は約80%であった。この判別器の精度を、2021年~2022年に取得した検証用の音声を用いて検証した。精度検証の結果、約65%の正解率で健常群とMCI群を判別できた。 また、認知症とは別の疾患に対しても音声からの判別器を提案しており、そのノウハウを認知症判別器にフィードバックし判別精度の向上を図っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シングルタスク時の音声から健常群とMCI群を比較的精度良く判別する判別器を提案し、その精度を検証するための新規音声を取得した。研究計画の段階で想定していた数の検証データを集めることができ、学習データとは異なる母集団から取得した検証データにおいて約65%の正解率を得たことはある意味チャレンジングな成果であった。現在は、デュアルタスク時の音声を用いた判別器の作成に取り掛かっている。音声から得られた特徴量をランダムに組み合わせて判別器を構成することで、シングルタスクよりも精度の良い判別器が得られる見込みである。この結果を論文として纏め、国際学術論文誌に投稿することを検討している。従って、概ね当初の計画通り順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
従来研究では見られないチャレンジングな成果が得られたとはいえ、約65%の正解率は決して良い精度とは言えず、学習アルゴリズムの工夫が必要である。これまでは学習データの中でMCIに特異的な特徴量を選出していたが、それらが検証データに対してもMCIに特異的であるとは限らない。これが検証データに対する低精度の原因である。これに対し、ランダムに特徴量を選出すると未知のデータに対する汎化性が向上する傾向がある。今後は、このランダム特徴量選出手法を深化させた学習アルゴリズムを提案することで判別器の精度向上を図る。それと並行して、デュアルタスク音声からの判別器の作成にも取り掛かる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度は成果発表の旅費として使用する計画であったが、現在の情勢を鑑み学会参加のための渡航は控えたため。次年度は、人件費・謝礼・その他として使用する計画である。
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