研究課題
膵癌の予後改善のためには早期発見と適切な診断が必須である。画像診断技術の進歩により、膵臓の小腫瘤性病変が発見されるようになってきたが、良悪性診断は容易ではない。研究代表者らはこれまでに膵腫瘤の診断における、EUSに超音波用造影剤を組み合わせた造影EUSの有用性について報告してきた。しかし、EUSは主観性が高く、術者の技量や経験によるところも大きい。本研究では、造影EUSで得られた画像を人工知能(AI)に機械学習させることで術者の技量や経験の差を軽減し、膵腫瘤診断における新たな診断体系の確立を目的とした。現在までに膵癌58例、非膵癌61例の合計119例の画像データを集積し、研究協力者である名城大学電気電子工学科の力を借りて機械学習による解析を行った。機械学習には、Attentionを使用したV-Netという手法を用いて学習・検証・テストを行った。3回の交差検証による膵癌・非膵癌の自動診断の感度、特異度、正診率の平均は、それぞれ83.3%、88.9%、86%であった。今後Attentionで重要視する領域を再分析、改善させることで、さらなる診断能向上が期待される。令和3年度は膵病変に対するEUSガイド下穿刺生検(EUS-FNB)におけるAIの有用性についても検討を行った。膵疾患に対して22Gフランシーン形状針を用いてEUS-FNBを施行し、検体採取直後に実体顕微鏡で撮影を行った96例173検体を対象とし、機械学習の一つである対照学習を用いた、膵疾患におけるEUS-FNB検体の新たな評価法の開発を目的とした。対照学習を用いた8分割交差検証(学習13時間、推論11分)による自動診断の感度、特異度、正診率の平均は、それぞれ90.34%、53.5%、84.39%であり、EUS熟練者による肉眼的判定と同等、もしくはそれ以上の診断能を得た。
2: おおむね順調に進展している
造影EUSの症例数としては当初の目標であった膵癌、非膵癌合計100例に対し、合計119例の症例を集積できた。また、膵臓に対する造影EUS以外の検討として、EUSガイド下穿刺生検(EUS-FNB)における人工知能(AI)の有用性についても症例の集積、研究をすすめることができた。機械学習による解析についても名城大学電気電子工学科の協力のもと、解析をすすめており、概ね順調に進展していると考えている。
AIを用いた造影EUSによる膵腫瘤性病変に対する良悪性診断能の検討については、解析結果を令和3年4月に日本消化器病学会総会で発表した。今後さらに症例を集積し、論文化を目指す。EUSガイド下穿刺生検(EUS-FNB)で得られた検体の実体顕微鏡写真に基づく機械学習による解析結果については、令和3年9月に日本膵臓学会大会にてdeep learningを用いた解析結果について発表した。この結果を踏まえ、deep learningに加えて機械学習の手法である対照学習を用いた解析結果を令和4年5月に日本消化器内視鏡学会総会で発表する予定である。
令和2-3年度は新型コロナウイルスの影響により多くの学会や研究会が中止、またはWeb開催となったため、国内および国外の旅費を使用する機会がなく、当初の計画よりも使用経費が少なかった。次年度は一部の学会等は現地開催の予定があり、積極的に参加し、旅費として経費を使用させていただく予定である。また次年度は研究結果の論文化を試みる予定で、英文校閲料、研究成果投稿料としても経費を使用予定である。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件)
Diagnostics
巻: 12 ページ: 434~434
10.3390/diagnostics12020434
Canadian Journal of Gastroenterology and Hepatology
巻: 2022 ページ: 1~8
10.1155/2022/2737578