われわれは,これまでに共同研究により開発した腹腔鏡手術用の照明装置を用いて,手術映像に立体感と自然感をもたらす上方照明システムを開発した.2020年度には,照明装置の温度上昇の問題をペルチェ素子を用いた水冷式の回路を開発することで解決した.2021年度には,電源装置と水冷式回路を一体化し,照明装置には温度上昇に関する安全機構を搭載するよう改良した.2022年度は,多診療科医師らにより,上方および通常照明システムの比較検証手術を行い,統計学的検討を加えた. 2022年の検証実験では,上方及び通常照明システムを交互に切り替えながら,消化器外科,泌尿器科および産婦人科医師らが,比較検証手術を行った.術式として,消化器外科医は,ご献体を用いたS状結腸切除術,回盲部切除術および体腔内消化管吻合術,泌尿器科医は,ご献体を用いた腎被膜縫合術,産婦人科医は,ブタを用いた膀胱切離縫合術とした.手術を見学した医師と医学部学生,および手術に参加した医師は,質問1(13項目):手術映像の評価,質問2(5項目):手術のやりやすさ,質問3:どちらのシステムを利用したいか(二者択一),という内容のアンケートに回答した. 検証手術の結果は,以下の通りであった.参加者は26名の医師と14名の学生.このうち,手術を行ったのは19名の医師(消化器外科医:11名,泌尿器科医:4名,産婦人科医:4名)であった.アンケートに回答した40名の総計の,手術映像の質,手術のやりやすさ,およびどちらの映像で手術をやりたいかというアンケートの集計結果では,質問1,質問2はいずれも統計学的に有意に上方照明システムが高く評価され,質問3においても,上方照明システムと回答した参加者が多かった. 以上の結果から,照明装置が実臨床で使用できる可能性を示唆すると共に,前臨床的評価としての上方照明の有用性が証明できたと考えている.
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