研究課題/領域番号 |
20K12711
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
高柳 泰 大阪大学, 医学系研究科, 寄附講座助教 (50578250)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 再生医療 / Quality by Design / 特定細胞加工物 / 製造工程 |
研究実績の概要 |
本研究は、再生医療臨床研究として世界初の移植手術を実施したiPS細胞由来角膜上皮細胞シートを対象として、今後の実用化を見据えて医薬品製造設計の考え方を取り入れ、より洗練された製造工程を組み立てることを目的としている。本研究が目指す製造工程の策定にあたっては、最終的に出来上がった製品の品質に直結する製品特性を、工程中で評価、管理できるように設定することが重要である。本研究対象のiPS細胞由来角膜上皮細胞シートの有効性に直結する特性を設定するにあたっては、移植した細胞が長期間にわたって保持され機能するために細胞シート内に幹細胞性を維持した細胞がどの程度含まれているかという点を管理することが重要と考えられた。そこで、これまで主に基礎研究段階で幹細胞性の評価に用いられていた細胞コロニー形成試験法を応用し、本品の製造工程管理に適した評価系の確立を進めている。 また、昨今のコロナ禍の影響によって原料供給が不安定になったことで、今後の本品の製造に対する対策を講じる必要が生じた。製造に用いている原料のうち、輸入製品の供給が不透明となったため、培地と添加物を供給の安定している国内メーカー製品へ切り替えても製造が可能であるかの検証を実施した。検証の結果、国産原料を組み合わせることで、目的細胞の分化誘導効率を維持して製造できることが確認できた。 本研究では、当該年度を含む研究期間の前半2年間で主に製品評価・データ収集を行い、最終年度にそれら情報を元に適正な製造工程を組み立てる計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、再生医療用細胞製品(iPS細胞由来角膜上皮細胞シート)について、医薬品の製造工程の考え方を取り入れて、今後の製造により適した工程を組み立てることを目的としている。本研究が目指すQuality by Designに基づく製造工程の策定にあたっては、最終的に出来上がった製品の品質に直結する重要品質特性(CQA)を工程中に設定して管理することが重要である。本研究対象の細胞シートの移植後の有効性に直結する品質としては、生着した細胞が長期間にわたって保持され機能するために細胞シート内に幹細胞性を維持視細胞がどの程度含まれているかを評価することが重要と考えられた。そこで幹細胞性評価手法であるホロクローンアッセイを応用して細胞シートに含まれる細胞の解析を行い、数値化する評価系の確立を進めている。細胞を単離し、クローニング培養して、幹細胞性の高いホロクローンと分化細胞から成るパラクローン、中間のメロクローンの割合を調べることで、製品としての幹細胞性の評価、測定が可能になると考えられる。細胞シート製造と同様の培養条件のままで同試験を試行したところ、CQA設定のための優位な差異を見出すことが困難であったため、現在は培養条件の最適化の検討を進めている。 また、昨今のコロナ禍の影響により本品の製造に用いる原料の輸入製品の供給が不安定となることが明らかとなったため、その対策を併せて考慮する必要が生じた。製造に用いている原料のうち、基礎培地G-MEMを海外メーカー品から国内メーカー品へ、さらに分化誘導培養時の添加物を同じく国内メーカー製品であるNSサプリメントへ変更して、分化誘導が再現できるかの検証を行った。これら国産製品を製造工程に用いて、目的細胞(角膜上皮前駆細胞)を分化誘導できることが確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
近年の医薬品の開発では研究開発段階から実製造を想定した工程を作り込むためQuality by Designに基づく製造工程設計が行われている。本研究では、同様にQbDに基づく製造工程設計を再生医療用細胞製品にも当てはめて運用することを目標とする。本思想の工程設計と品質管理の要所となる重要品質特性(CQA)を、もとより個体差や生育中の変動の大きい細胞を主原料とする再生医療製品に当てはめて運用することは困難を孕む。現在、本品のCQA幹細胞性に着目して設定するためのホロクローンアッセイ評価系の確立を主要課題としているが、次年度もまずは同課題に引き続き取り組む。この評価系は品質管理試験としては時間を要するものの、本品の製造工程ではいったん凍結細胞ストックを作る過程があり、そこでこの評価系をCQA管理ステップとして組み込むことが可能と考えられる。この組み込みが達成できれば、医薬品のサロゲートマーカーのような明瞭な管理基準としての活用が期待できる。また、今年度はコロナ禍の影響で原料切り替え検証も併せて検討したが、今後も実製造を想定した多面的な対策を実施していく。 R3年度までは製造評価やデータ収集を中心に実施し、最終R4年度には評価をもとに、より適した製造工程の組み立てにつなげる方針である。
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