本研究は,医療機器を対象とした熱設計法や熱設計指針の構築を目的に,医療機器の熱問題の学術的な展開を目指すものである.2023年度は,(1)熱の流れを調整する部材の試作とそれを用いた熱設計法の検討,(2) 医療現場での使用状況における温度評価法の基礎的検討などを行った.主な成果は下記のとおりである. (1) 医療機器や医療の現場で用いられる器具のうち,熱的な取り扱いが必要となるものとして,生殖補助医療の現場で用いられる医療用の培養ディッシュがある.医療の現場で用いられることから,培養ディッシュの内部環境を損なわず,かつ簡便に受精胚近傍の温度を保持する構造や素材の採用が必要である.2023年度は,顕微鏡観察工程において培養ディッシュ内の受精胚の温度変化を最小化するために,新たに4種類の粉体を用いた保温デバイス製作し,加熱および冷却時の保温デバイスの温度特性に及ぼす粉体の種類やその素材構成の影響を検討した.加熱・冷却実験の実施によって保温デバイスの温度特性を調べた結果から.粉体とエポキシ樹脂の質量割合の調整によって保温デバイスの温度特性を制御できる可能性があることを明らかにした. (2) 生殖補助医療の一つである体外受精で用いられる培養ディッシュ内で受精胚近傍の温度変化を測定する一つの法として,温度によって色が変化する示温材を用いる方法について検討を行った.示温材の色変化と熱電対による温度測定結果を比較した結果から,培養液のモデルとして培養ディッシュに水を入れた状態でも示温材の色はディッシュ内底面の温度をよく反映したが,測定物の温度を相対比較するには示温材の測定範囲に応じたキャリブレーションが必要であるが明らかとなった.
|