本研究はヒトパピローマウイルスワクチンを例にとり、そのベネフィットとリスクのバランスをワクチン専門家以外にも分かり易くする手法の開発を実施し、定量的なベネフィット・リスクバランス評価を試みたものである。また、数学モデルを用い、いくつかのシナリオのシミュレーションを行うことで、政策評価や提言に繋げることを意図した研究である。これまでの研究成果を踏まえて、最終年度には日本薬学会の和文学術雑誌である薬学雑誌に論文を公表した。本手法は、国際的にも活用されている障害調整生存年をワクチンの有効性と副反応両者の一元的な指標として活用することで、いくつかの前提、仮定は存在するもののベネフィットとリスクを同一単位の数値に換算し、簡単な四則演算結果によりバランス評価が行える、画期的なものである。本手法を用いた結果、我が国のヒトパピローマウイルスワクチン接種状況に基づくベネフィット・リスクバランスは、2価ワクチンの場合は大多数の子宮頸がんを確実に予防できないとベネフィットがリスクを上回らないこと、4価ワクチンでは50%の子宮頸がんを予防出来れば十分なベネフィットが得られることが明らかとなった。また、数学モデルによるシナリオシミュレーションでは、確立したモデルの妥当性を、実際の子宮頸がん罹患者数および死亡者数とモデルによる計算結果を比較することで実施した。その結果、疫学データとモデルデータは相関係数0.9以上の高い相関を有していることが明らかになり、また同様の検討を豪州のデータにおいても実施したところ、十分な相関を有していたことから、各国のヒトパピローマウイルスワクチンおよびワクチン接種に関する疾患状態を捉えた数学モデルが確立できたと考えている。なお、この結果は日本薬学会第141年会において発表した。今後は、確立した数学モデルを用いて、様々なワクチン政策の評価を実施していく予定である。
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