研究課題/領域番号 |
20K12745
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
村上 隆啓 明治大学, 理工学部, 専任講師 (50409463)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 遅延聴覚フィードバック / 仮説検定 / 1チャンネルマイクロホン / 方向推定 / 話速変換 / 再生速度変換 / phase vocoder |
研究実績の概要 |
本研究課題は、老人性難聴を想定した補聴器の性能を改善するためのものである。そのために、研究実施期間を通じて「(1)遅延聴覚フォードバックが身体運動に与える影響の客観的評価方法の確立」「(2)加齢による聴力損失と聴覚フィードバックにおける許容遅延時間の関係の調査」「(3)聴力損失に合わせた補聴器の入出力時間差の上限の決定」を行う。さらに、上記(3)によって決定した入出力時間差を様々なDSP技術に用いることで、それらの性能がどの程度改善されるのかを評価する。 令和4年度は令和3年度までと同様に、新型コロナウイルス感染拡大の影響によって高齢者を対象とした上記(2)および(3)をまったく実施できなかった。一方、令和3年度に新型コロナウイルス感染拡大の長期化を想定した研究計画の一部変更に基づき、令和4年度は大学生を対象とした遅延聴覚フィードバックが与える影響についての調査を実施した。この調査は、過去に実施した高齢者を対象とした調査の結果と大学生を中心とした若年者を対象とした調査結果との差について、統計的な有意性を持つことを裏付けるためのもので、令和3年度に構築した短い遅延時間を制御できる聴覚フィードバックシステムを用いて調査を実施した。これらの調査結果に対して仮説検定を行い、両者に統計的な有意差があることを確認した。 また、令和4年度は上記(3)を実施できなかったことから、令和3年度から引き続き、上記(3)の後に実施予定であるDSP技術の性能評価に関連した音響処理技術の開発を実施した。この研究では、1チャンネルマイクロホンを使用した音源方向推定方法の性能改善、および会話音声などをゆっくり聞こえるように変換する話速変換(再生速度変換)方法の性能改善のためのパラメータ推定方法の開発を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究課題の当初の計画では、令和2年度に「(1)遅延聴覚フィードバックが身体運動に与える影響の客観的評価方法の確立」および「(2)加齢による聴力損失と聴覚フィードバックにおける許容遅延時間の関係の調査」を行い、令和3年度に「(3)聴力損失に合わせた補聴器の入出力時間差の上限の決定」を実施する予定であった。しかし、新型コロナウイルス感染拡大が続いた影響で、これらは令和4年度も実施できなかった。一方、令和3年度の途中から、多くの大学等において対面での活動が再開していたために研究計画を一部変更し、令和4年度は大学生などの若年者を対象とした調査を再開した。この調査によって、過去に実施した高齢者を対象とした調査結果と統計的方法によって比較するためのデータが得られ、これらを2 標本コルモゴロフ・スミルノフ検定によって分析することで、高齢者と若年者の調査結果の間に統計的な有意差があることを示した。 また、当初の研究計画では上記(2)および(3)の実施後に取り組む予定であった音響信号処理技術の検討を、前倒しして実施した。1チャンネルマイクロホンアレーを用いた音源方向推定に関する研究では、令和3年度に音声信号への拡張に成功した推定アルゴリズムについて、音源方向の角度がある程度大きくなると推定精度が劣化する問題の改善に取り組んだ。その結果、観測信号のスペクトルに現れる特徴を補正することでこの問題を改善した。話速変換方法の性能改善に向けた研究では、phase vocoderと呼ばれるアルゴリズムにおいて発生する音質の劣化の改善に取り組んだ。ここでは、音質が劣化しやすい音の開始点について、観測信号のスペクトルを数式によって厳密にモデル化することで得られる位相の特徴を利用して推定することに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画では、本研究課題は令和4年度までの実施予定であった。しかし、令和4年度も新型コロナウイルス感染拡大が続いた影響で「(2)加齢による聴力損失と聴覚フィードバックにおける許容遅延時間の関係の調査」を実施できなかった。一方、令和5年度は新型コロナウイルスの扱いが変わるため、高齢者を対象とした調査を再開できる見込みである。そのため、研究実施期間を1年間延長し、高齢者を対象とした調査を早急に再開する。 上記と並行して、入出力時間差の増加によって補聴器に実装されるDSP技術の性能が向上することを確認するための計算機シミュレーションを実施する。これは、当初の研究計画では「(3)聴力損失に合わせた補聴器の入出力時間差の上限の決定」の後に実施する予定であった。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大が続いた影響で研究計画が遅れているため、(3)と並行してシミュレーションを実施する。そして、(3)による入出力時間差の上限が決まり次第、DSPを用いた実環境実験を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度までと同様に、令和4年度も国内外で開催される研究会や国際会議等に参加して研究成果発表および情報収集を行うための旅費を計上していた。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大が続いたため、多くの研究会や国際会議等がオンラインでの開催となった。そのため、当初の研究実施期間であった令和2年度から4年度までの旅費の支出が、予定額よりも大幅に少なくなった。加えて、「(2)加齢による聴力損失と聴覚フィードバックにおける許容遅延時間の関係の調査」が当初の研究実施期間にほとんど実施できなかったため、被験者への謝礼の支出も予定より大幅に少なくなった。 研究期間を1年間延長して実施する令和5年度は、多くの研究会や国際会議等が対面で実施される見込みである。また、高齢者を対象とした調査も再開できる見込みである。そのため、次年度使用額は令和5年度に参加する研究会や国際会議等の旅費および被験者への謝礼に充てる。
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