研究課題/領域番号 |
20K12747
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
徳嶺 朝子 近畿大学, 生物理工学部, 講師 (90435058)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 人工心肺システム / 人工心肺操作 / 適正灌流量 / 急性腎不全 |
研究実績の概要 |
本課題は、開心術における人工心肺操作の与える影響を把握するための後ろ向き研究である。近年、人工心肺操作の現手技手法に伴う酸素需給バランスの関係および不適正灌流を把握する観察研究が諸外国で多く報告されている。心臓を一時的に停止させる開心術では、人工心肺操作が患者の予後に与える影響は大きく、適正灌流が保たれなければ臓器不全を起こす危険がある。特に人工心肺適用後の急性腎不全(以下、AKI)の発症率は通常の手術と比べて多いとされている。本課題では、人工心肺システムを適用した患者の術中の操作記録、および術後の生体情報の相互関連を解析することを目的とし、研究の最終的なゴールは人工心肺操作のための操作支援ソフトウェアの開発を目指している。 初年度は患者データの取得を実施した。共同研究機関にてオプトアウトを実施し同意が得られたデータのみを扱う。現在の取得症例数は約100例である。次年度さらに症例数を増やし検証を行う予定である。本研究課題では、酸素需給バランスと不適正還流を把握する。術式、手術総時間、輸血の有無、ICU滞在時間など因子ごとに統計解析を実施し、人工心肺システムを使用した心臓手術後の合併症であるAKIの危険因子等を検証した。ICU滞在時間がAKI群において有意に延長したことから、AKIは開心術後における患者の短期予後を悪化させることが示唆された。ICUにおける長期滞在は多くの医療資源が必要となるため医療費の増大にも繋がる。AKI発症を軽減することはこれらの問題の改善にもつながるため今後も症例数を増やし検討を重ねる必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現時点では、術後AKIのリスク因子として酸素需給バランスのミスマッチや非生理的環境下におけるストレスなどが原因であることが示唆されている。今後、患者の基礎疾患や薬剤、術後の腎代替療法の有無などについても検討していきたいと考える。将来的には単一施設のデータだけでなく複数の施設のデータを用い、症例数を増やした検討が必要になると考える。未解析ではあるが、症例数を約100例追加取得できた。2年目にはさらにデータを増やし意義ある統計解析に努めたい。現在の問題点として統計解析を行う際、2標本の大きさをほぼ同じにする必要がある。今回は対象症例数が少なく、2標本の差が大きい標本で比較検討しているが、Non-AKI群が185件、AKI群が27件と非常に差が大きい中、統計解析を行ったため、信頼性に欠ける可能性がある。 開心術における患者の予後改善のために、国内においても現在の体外循環中の管理方法だけでなく、新たな指標を確立する必要性がある。人工心肺を使用した体外循環後のAKI のリスク因子について検討した。年齢、術前腎機能、血行動態、手術時間やその複雑さを含む様々な因子が術後AKIと関連している。今後人工心肺操作が介入できる因子を同定する。
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今後の研究の推進方策 |
人工心肺操作の現手技手法に伴う酸素需給バランスの関係および不適正灌流を把握する。術式、手術総時間、輸血の有無、ICU滞在時間など因子ごとに相関を求める。また、操作データを用いた生体情報の関連についても検証し、期間後半では予測モデルの作成を試みる計画である。操作データを学習データとテストデータに分け、症例ごと体格ごとなどの関連式の導出から、テストデータにて術中の操作予測を実施する。検証には、解析に使用しない一部の操作データを用いてテストする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の影響があり、参加予定の学会の中止が相次いだため、旅費の使用がなかった。これにより、校閲費の支出が不要となったため謝金等の支出もゼロであった。その他では、学会参加費等を予定していたが、学会の中止により使用することはなかった。 今年度もCOVID-19の影響が大きく、関連学会のオンライン開催が見込まれるため旅費の使用は見込めない。オンライン開催の場合に備えその他の予算を計上する。論文等の作成のため校閲費を支出予定とし謝金等に計上する。また、旅費の使用が見込めないことから、研究解析環境を予定より拡充したい。当該年度に購入したパソコンへ解析ソフトを追加する。複数のパソコンで解析が可能になれば、昨年実施できなかった解析を継続することが可能となる。
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