本研究は,一人暮らしの高齢者の見守りを,音信号を用いた機械的な異常検知に基づいて行うことを目的とする. 本年度は,これまでに作成してきた,混合ガウス分布モデルによる外れ値検出による古典的な異常検知システム,ニューラルネットワークを用いて作成したいくつかのシステムの比較を通して,ハイパーパラメータの全体的な見直し,設置環境における異常検知性能の比較を実施した.なお,ニューラルネットワークをベースとして開発した異常検知システムは全部で3つで,オートエンコーダ(AE)を用いたシステム,敵対的生成ネットワーク(GAN)を用いたシステム,そして,DAGMM(Deep Autoencoding Gaussian Mixture Model)を用いたシステムである.混合ガウス分布を用いたシステムでは,我々が作成した音信号の自動セグメンテーションシステムを用いて音信号を分割しており,ニューラルネットワークを用いたシステムでは,短時間フレームによる分割を採用している. 日常的な生活空間での異常検知を目的とし,大学構内のカフェテリアでの環境を用いて異常検知性能に関する検討を実施した.当初の予想では,音響特徴量を自動的に最適化することを意図したDAGMMによる異常検知システムが最も検知性能が高くなると考えていたが,比較対象のベースとした混合ガウス分布を用いた外れ値検出に基づく異常検知システムの性能が想定よりも高く,DAGMMの性能と拮抗する結果となった.一方,DAGMMを用いたシステムは,AEやGANを用いたシステムよりは検知性能が高く,異常の誤検知が少なくなる傾向が見られた.これはDAGMMの前段に設置されたAEによる環境への適応能力によるものと思われる.十分な検討は出来なかったが,この適応力によって古典的な外れ値に基づく異常検知システムより汎用性の高い異常検知システムを提案出来たと考える.
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