研究課題/領域番号 |
20K12762
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研究機関 | 石川工業高等専門学校 |
研究代表者 |
藤岡 潤 石川工業高等専門学校, 機械工学科, 准教授 (20342488)
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研究分担者 |
穴田 賢二 石川工業高等専門学校, 機械工学科, 講師 (30756531)
任田 崇吾 石川工業高等専門学校, 電子情報工学科, 助教 (50847382)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 双方向クラッチ / アシストスーツ / 福祉機器 / 係合条件 |
研究実績の概要 |
高齢者の作業負担増加が深刻な社会問題となっている。そこで力の弱い作業者が日常的に利用可能な負担軽減装置として、無動力の受動型アシストスーツに大きな期待が寄せられている。本研究では、弾性力の伝達と遮断の切り替えが受動的に可能な独自の双方向クラッチを受動型アシストスーツの上肢関節機構に用いることで、動作方向の筋力補助を可能とした、高齢者の日常生活支援に適した受動型アシストスーツの開発と評価を行うことを目的とする。 昨年度実施した研究の成果として、上肢動作に応じて受動的に双方向の伝達力切り替えが可能なアシストスーツに適した新たな双方向クラッチ機構の係合原理について検討し、トルク特性を最適化するクラッチの要素形状や要素間の接触状態に関する設計条件を求め、提案機構の実現をはかった。双方向クラッチに於ける設計条件として、係合子の初期位置、係合子と各要素間のクリアランスおよび接触角を設定し、設計条件を変えて製作したクラッチにより設計条件の最適化を行った。その結果、無負荷時のトルク軽減、および係合時の保持トルクの向上を達成した。最も新しいモデルでは無負荷時トルクが0。04Nm、係合トルクが17。8Nmであり、入出力比、係合トルクの重量比について、従来の無通電ロック機構等の類似機構に比べて数倍の保持力を達成した。 さらに上肢用受動アシストスーツを試作し、先に述べた双方向クラッチを実装して、受動型アシストスーツへの応用性について実験的に検証した。今回は肘関節のみにクラッチを設け、装着者がアーム先端で荷重を持ち上げた後に保持するといった動作を行った。弾性体を設けない状態で行った結果、持ち上げ動作を阻害することがないこと、さらに保持において上腕の力をまったく必要としないことが確認できた。以上の結果により本研究の目的である双方向クラッチを用いた受動型アシストスーツの実現可能性を示したと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、上肢動作のアシストに注目して、双方向クラッチと弾性体による、受動型でありながら増力が可能なアシスト機構を提案している。そのための要素として、入出力トルク比と重量あたりの係合トルクが高い双方向クラッチ、双方向クラッチによるアシストスーツの作業力伝達構造の設計、弾性体による適切な増力機構が挙げられる。昨年度はまず双方向クラッチの性能改善を目的として、前述の通り設計パラメータの最適化を行い。作業力として十分な係合トルクと、作業動作を阻害しない入出力トルク比を実現した。一方で、無負荷時の入力トルクや係合子の不要な干渉を抑えるため要素間のクリアランスを広げたところ、逆に遊び角が増大する結果となった。この問題について現在モデルの修正を行っている。 また、受動型アシストスーツの機構構成について検討を行った。現在までに現バージョンの双方向クラッチを関節ユニットとした、作業動作への追従が可能な上肢用試作スーツについて設計製作を行っている。また試作スーツにより、持ち上げ動作に関する影響の検証を行った結果、作業動作を大きく阻害しないこと、姿勢保持時にスーツが双方向クラッチを保持機構として、作業力を保持できることが確認された。保持可能な作業力は双方向クラッチの係合トルクに依存しているため、現在の双方向クラッチモデルで5kg程度の物体を、無負荷で保持することが可能である。 弾性体による増力については、上記試作スーツの肘関節を挟み弾性体を試験的に取り付けて、持ち上げ、持ち下げにおける作業負担の軽減について検討した。取付位置は実験的に定めたが、一定の負担軽減効果が見られた。一方で、想定したように増力効果が不安定であり、作業性に問題があることが明らかとなり、計画に基づき筋骨格動力学モデルに基づく、補助トルクに応じたフレーム構造、弾性材とその配置条件を明らかにする必要があると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進方策として,双方向クラッチ機構の再設計,適切な補助力を得るためのスーツフレーム構造および弾性体とその取付位置の最適化,受動型アシストスーツによる作業支援効果の検証が挙げられる. アシストスーツの保持機構として,双方向クラッチの保持トルクに関する性能改善は,昨年度達成した.しかし,本スーツは減速機構を持たないため,性能改善の結果,新たに生じた遊び角が作業性を損なうことが問題となると考えられる.よって,現状の保持トルクを維持しつつ,係合子のクリアランスと各要素との係合条件にフォーカスしてモデルの再設計を行う. 一方,当初計画通り,弾性体の特性と取り付け位置,さらにスーツフレーム構成について,筋力補助効果の改善を目的とした最適化を行う.まずモーションキャプチャにより作業動作の三次元測定を行い、測定結果から構築した筋骨格動力学モデルに基づき、作業動作全体を通して効果的な補助トルクとなるようなフレーム構造、弾性材とその配置条件について検討する.さらに検討結果に基づき弾性体を配置し,戻り動作、作業動作両方向のアシスト、および伝達力の切り替えを動作を含む受動型アシストスーツの筋力補助効果について検証する. 最後に本スーツによる作業負担軽減効果を定量的に明らかにする。作業負担についてはモーションキャプチャによる作業動作の評価、無線式表面筋電計による筋疲労測定、さらに心拍数と修正基準化脈波容積脈拍によるストレス分析から、作業負担軽減効果を評価する。さらに高齢者を含むスーツ着用者に,着用時のストレスや作業負担の増減についてアンケートによる官能評価を行い,数値的な軽減効果と照らし合わせてスーツの有効性と実用性を示す.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者の配分額についてはほぼ計画通り年度内に使用した。一方、研究分担者への配分については、昨年度中、コロナ等の影響で外部部外者を対象とした分担担当の実験が進まず、これらに関する物品消耗品に関しては、本年度のコロナの感染拡大状況を踏まえて、使用時期について検討の上使用することになった。そのため研究分担者への配分について、今回特に比較的大きな次年度使用額が生じた。よって本年度分として請求した助成金と併せて、新たに使用計画を策定中であるが、当初研究計画のうち外部での実験に関する使用は、本年度後半に状況を踏まえて使用する予定である。
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