日本では高齢者が急激に増加しており,認知症の予防と早期発見は重要な課題である.一方,近年では高齢者の認知機能と手指や歩行に関する運動機能との関係に関する研究も進められている.このような先行研究の報告を踏まえ,本研究では,被験者の手指運動機能を測定し,その結果から 認知症の進行度を診断するシステムのための研究開発を進めてきた.2023年度についてはこれまで開発してきたパズルゲーム(タングラム)を活用した手指運動機能の測定システムに加え,高齢者のQOL向上に重要とされる歩行機能の評価法に関する基礎研究を進めた.
本研究課題では,特殊な装置や専門知識を必要とせず,スマートフォンのような一般的なカメラによって撮影された動画から歩行機能を評価するための手法,ならびに入力データと評価結果の関係について検討した.本研究では,歩行機能の評価に使用される指標(Gait Deviation Index: GDI)が健常者の歩行特徴からどの程度乖離しているかを示す指標であることに着目し,深層学習モデルを用いたGDI予測手法について,基礎的な検討を行った.
本課題では実証実験に十分な数の高齢者の歩行動画が撮影できなかったため,米国にて公開されている小児麻痺の歩行に関するオープンデータ(歩行時における関節位置の時系列データ)を活用し,モデル構築の際における学習データの利用方法と予測精度との関係について考察した.検討の結果,歩行時に得られる時系列データとGDIの間には様々な相互作用があること,GDIの分布は歩行の特徴と必ずしも一致していない傾向などが見られ,予測精度の精度向上には歩行時の時系列データに加えて被験者の基本情報なども含めたマルチモーダルモデルが必要となることが示唆された.
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