本研究は、E・レヴィナスが1960年代以降に展開する、自分が他者から呼びかけられてしまっていることを根源的な自己性として提示するラディカルな自己論の内実を明らかにすることを目的として、(1)自己性をめぐる後期レヴィナスの思索を体系的に分析すること、そして同時に(2)同時代フランスの哲学者たちとレヴィナスの思想的交流の実相を精査すること、この二点を方法の柱として、自己の「唯一性」、自己への呼びかけの時間性としての「過去」、自己性の場としての「声」という三つの視点から後期レヴィナスの自己論を研究するものである。 研究期間を延長しての最終年度となる本年度は、主として昨年度の研究の成果を学術論文および研究発表としてまとめる作業を行った。重要な成果として、(1)「響き」や「こだま」といった音声的表現に着目して後期レヴィナスの主著『存在の彼方へ』の自己論を読解し、「声」「音」「発話」「呼び声」といった音声的事象をめぐって省察を深めてきたフランス現象学の展開の中に位置づけた学術論文と、(2)『全体性と無限』までの時期のレヴィナスの身体論を、M・アンリの身体論のキーワードである「自己感受」と身体の運動に対する「抵抗」という二点において詳解し、レヴィナスの身体論の特質を明らかにした学術論文がある。これらは本研究全体の集大成ともなる、重要な研究成果である。 全体として本研究は、新型コロナウイルス感染症の蔓延に大きな影響を受け予定を変更して4年にわたったが、学術書(2冊。うち1冊は共編著)や学術論文(重要なもの5本)、研究発表(重要なもの2本)の形で着実に研究成果を公表することができた。
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