研究課題/領域番号 |
20K12780
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
富山 豊 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 研究員 (60782175)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 志向性 / 意味 / 数学論 |
研究実績の概要 |
フッサールの数学論の再構築に向けて、志向性理論の整理を進めた。静的にはその本質が真理値決定への寄与に基づくフレーゲ的意味論に近しいことは既に過去の研究で明らかにしたが、そのじっさいの機能の仕方が地平志向性に基づく目的論的プロセスとして捉えられるべきことを明らかにし、論文「現象する知の叙述――ドイツ哲学の伝統のなかのフッサール現象学と新田現象学」として『現象学 未来からの光芒~新田義弘教授追悼論文集~』に寄稿した(刊行は2021年4月のため次年度)。その際のポイントのひとつは、「意味」と「対象」、「現出」と「現出者」といった対概念で語られることの多いフッサールの志向性理論が、必ずしも独立にそれとして存在する別個の存在者間の二項関係として捉えられるべきではないということであり、そのことは新田義弘の諸著作においてはハイデガーの存在の退去性の議論と結びつけられ、ヘーゲル的・解釈学的な否定性と対比される垂直的な深さの次元の否定性として描かれている。 数学論的には、この洞察は数学的真理やその証明も対象領域を形成する背景的な地平に基づいてのみ可能となることを意味しており、現代的にはそれを支えるものが公理、あるいはモデル上の制約であると考えることができる。公理の集合も文集合として捉えればそれ自体数学的対象とみなされうるが、そうした意味での公理が必ずしも意図されたモデルを特定する十分な表現力を持たないことはよく指摘される通りである。この点で、単なる形式的証明に数学を還元することなく、直観における構成という動的実践を重視したフッサール数学論にポイントを見出しうるのではないかという展望が得られる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
フッサール数学論を再構成する上での前提となる、フッサール志向性理論の精錬については、これまでの研究を踏まえ、十分に成果が得られている。コロナ禍の想定外の影響のため、学会発表等の成果発表は遅れているが、蓄積は進んでいる。他方、数学論に限定した研究成果の進捗については、コロナ禍に伴うイレギュラー要素への対応のため、とりわけ年度前半においては遅れていた。しかし、証明概念の明晰化のために必要な型理論や圏論等の基礎理論についての検討は遅れつつも進んでおり、フッサール志向性理論との接続が期待される。予定していたフッサール数学論の先行研究についての検討が遅れ、進捗が十分でないことは反省材料である。
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今後の研究の推進方策 |
予定通り、まずはフッサール数学論に関するチェントローネ、ファン・アッテンらの重要な先駆的先行研究の整理、批判的吟味に力点を置いて研究を進める。これらはまだ世界的にも十分に咀嚼されていないものの、これまでの研究におけるフッサール志向性理論一般の構造に関する研究成果、およびそこで参照した現代数学論・現代論理学の知見に関する蓄積から直ちに取り掛かることのできる課題である。加えて、これまで援用して来た直観主義論理や初歩的な計算機アルゴリズムの理解にとどまらず、直観主義解析学、他の構成主義諸学派の体系、証明論的意味論に関する先端的な技術的成果などの知見を並行的に研究し、フッサール数学論との接点を探る作業は少しずつ進めておく。こうした技術的諸成果は、「証明」および「構成」の具体的内実を探るためのものである。 また、こうした技術的成果を盛り込んでフッサール数学論の現代的意義を引き出す議論から十分に新規性のある議論が期間内に取り出せない可能性に備え、これまでの初期・中期フッサール志向性理論研究を後期論理思想・後期数学論のテクスト研究に拡張した研究を補完的に並行する作業も予定通り進めておきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響による学会等の開催延期・中止に伴い旅費支出の使用が出来なかったため、書籍費用の前倒しである程度対応したものの、若干の残額が生じた。翌年度の状況も不透明であるが、学会等の再開の場合に備え、とりわけ国内旅費は若干確保しておき、書籍費用、及び論文閲覧用にタブレット等の環境を整備するために物品費を優先的に使用していく。
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