研究課題/領域番号 |
20K12780
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
富山 豊 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 研究員 (60782175)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 現象学 / 志向性 / 意味論 / 数学の哲学 |
研究実績の概要 |
フッサール数学論の再構築に向けて、志向性理論の一般的構造に関するこれまでの研究を整理するとともに、時間論解釈をより深める研究を行った。前者については、「証明」概念と密接に結びついたダメット的な意味理解の概念に即したこれまでの解釈を踏まえつつ、その推論主義的な側面を前面に出し、意味理解と感情理解を対比しつつ「理解」概念の射程を探る研究を瀬戸内哲学研究会オンラインワークショップ「共感と理解」において発表した。「他者の感情を理解することは他者の言葉を理解することとどう違うのか」と題したこの発表では、適用の状況と適用の帰結の二側面から推論的使用法を特徴づけるというダメット・ブランダム的な意味理解の説明を踏まえ、言葉の意味の理解と感情理解の共通点と相違点について検討した。後者については河本英夫(編)『現象学 未来からの光芒 ~新田義弘教授 追悼論文集~』に寄稿した論考「現象する知の叙述――ドイツ哲学の伝統のなかのフッサール現象学と新田現象学」において志向性の動的性格をこれまで以上に踏み込んで解明したほか、北海道大学の栁川耕平氏と共同で時間図表に表現されるような時間形式・時間構造と志向性の関連について議論を進めている(未発表)。時間構造についての分析は、数学を時間的に構成されるものと見る直観主義の立場を正確に理解し、フッサールの立場と比較する上で極めて重要な意味を持つ。この点で、また可知性原理に関するパラドックスとの関連からも、真理と時間の関係、また正当化と時間の関係という観点から考察を進めており、これまでの志向性理論研究と密接な連関を持っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
フッサール数学論を再構成する上での前提となる、フッサール志向性理論解釈の整理についてはこれまでの研究を踏まえ、十分に成果が得られている。コロナ禍の想定外の影響のため、学会発表等の成果発表は遅れているが、蓄積は進んでいる。他方、数学論に限定した研究成果の進捗については、コロナ禍に伴うイレギュラー要素への対応のため、昨年度に引き続きやや遅れている。しかし、証明概念の明晰化のために必要な型理論や圏論等の基礎理論についての検討は遅れつつも進んでおり、フッサール志向性理論との接続が期待される。予定していたフッサール数学論の先行研究についての検討が遅れ、進捗が十分でないことは反 省材料である。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定通り、これまでの研究の延長線上で着実な進行が見込める、フッサール数学論に関するチェントローネ、ファン・アッテンらの重要な先駆的先行研究の整理、批判的吟味に力点を置いて研究を進める。加えて、「証明」および「構成」に関する数理論理学的・計算機科学的研究のサーベイを並行的に進める。これらの分野にはフッサールはもちろんダメット以降も多くの進展が為された分野であり、技術的なツールのアップデートによる議論の解像度の向上だけでも十分な意義がある。また、フッサール後期論理思想・後期数学論のテクスト研究も予定通り進めておきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度に引き続きコロナ禍の影響による学会等の開催延期・中止・オンライン開催への移行に伴い旅費支出の使用が出来なかったため、書籍費用の前倒しである程度対応したものの、若干の残額が生じた。学会等のオフライン開催の再開に備え、とりわけ国内旅費は若干確保しておく必要があるものの、今年度も旅費の使用は制限される可能性が髙いことから、書籍費用及び研究環境整備のためのPC関連等物品費を優先的に使用していく。
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