本研究の目的は、現代ドイツの社会哲学の議論を、理論哲学の観点から分析を与えることにあった。とりわけ本研究では、ハーバマスの理論展開とプラグマティストとの影響関係を理解しようと試みた。なぜならハーバマスは自身の理論を、90年代以降アメリカのネオ・プラグマティストと呼ばれる 一群の哲学者との対話を通じて発展させてきたからである。本研究の意義は、ハーバマスが21世紀に入って行ってきている研究の持つ理論的な射程およびドイツ語圏を超えた影響範囲を明確にすることにある。 研究期間全体を通じて、本研究では2つの問いを巡って考察が進められた。第1の問いは、ハーバマスの真理論はいかにして規範的言明の正当性の議論に展開できるのか、であった。この課題には1年目と2年目の研究が費やされた。本研究では、この問題設定について、正当性の分析に真理論の分析が応用できるはずであること、そしてそのためにハーバマスの1990年代以降の議論が修正を受けるはずであることを明らかにした。 第2の問いは、ハーバマスのカント主義的プラグマティズムがいかなる意味で「カント主義」と呼ばれるのか、である。本年の研究計画では、前年度までの議論をまとめる作業を行うことを中心的な作業に据え作業を行なった。研究で得られた成果全体の取りまとめにはまだ時間がかかるが、いくつか萌芽的な結果を出すことができた。とりわけ本年度の研究は、プラグマティストの理論家としてハーバマスをとらえ、彼が解決を与えようとした理論的な問題設定(超越論的問題設定)を明確にすることに一定の目処がついたところが成果の中心と言える。これらの結果は、2022年8月に口頭発表し、2023年2月に単著論文として公刊した。この課題は、ここで述べた3年目の研究成果が問題解明の端緒となるが、さらなる研究が必要とされる。
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