研究課題/領域番号 |
20K12783
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
李 明哲 神戸大学, 人文学研究科, 人文学研究科研究員 (00758485)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 西洋近代 / カント / 人種 / 博物学 / 地理学 / 判断力 / 目的論 |
研究実績の概要 |
研究計画に基づき、カント批判哲学に内在的な人種理論の影響を示す研究を進め、まず、次の発表をおこなった。「カント人種理論の位置づけにかんする一考察 -『判断力批判』「目的論的判断力」への影響の可能性 」日本哲学会第79回大会(岡山大学での開催中止に伴い、日本哲学会HPにハンドアウト掲載で「既発表扱い」)、 2020年6月1日。さらに、内容を練り直し、以下の発表をおこなった。「カント人種理論の位置づけにかんする一考察 ―自然の合目的的体系の認識可能性にたいする影響― 」日本哲学会第79回臨時大会(Zoomによるオンライン開催)、2020年9月20日。この間の主な改善点は、第一に、考察の意義を明確にすべく議論の対象を制限したことである。具体的には、生物種全般にかんする「目的論的判断力」そのものの考察は範囲外とし、「反省的判断力」および「目的論的判断力」の基本的役割および位置付けが述べられた「序論」までの内容で、人種理論との関連を示すこととした。第二に、前批判期と批判期、批判哲学と経験哲学、認識論と有機体論といった、カント哲学においても異なる様相の領域間をつなぐ作業となるため、当時の博物学・哲学者たちとのやり取りをよりいっそう重視し、先行研究、書簡、遺稿などを手がかりに、カントの思想形成の道のりを再構成するかたちで考察を進めた。 また、「カント研究会」例会で、以下の発表をおこなった(発表することで、正式会員として承認)。「カント批判哲学にみる人種理論の痕跡―自然の体系的統一の認識可能性をめぐってー」カント研究会2月例会(Zoomによるオンライン開催)、2021年2月28日。世代・専門領域の幅が広く、レベルの高いカント研究者が集まる研究会での発表は、今後の論文執筆に向けた有益な意見を得られる機会となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
カント人種論とカント哲学の内在的関連について、初夏に投稿した論文がリジェクトとなり、研究内容を練り直すこととなった。査読コメントを反映し、その後の学会・研究会での発表によって、本研究のオリジナリティおよび妥当性は高まっている一方で、年間の論文投稿の機会も限られているため、確実に掲載することを今後の最優先課題としたい。
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今後の研究の推進方策 |
(1)カント人種論とカント哲学の内在的関連についての論文掲載を最優先課題とする。
(2)18世紀博物学における「自然史」の議論は、カント人種理論にいかなる影響を与えたかを精査する。例えば、ビュフォンは『一般と個別の博物誌』(1749-1767)で、リンネの「分類」「体系」の恣意性を批判し、経験的な観察と比較を重ねて「一般的結果」を導く方法論を展開した。その一方で、「内的鋳型」や「有機部分」など、機械論的法則では捉えられない概念で、生物の成長・生殖を捉えていた。これらビュフォン流のアプローチは、カントの人種理論・有機体論に大きな影響を与えている。しかしながら、カントは自然現象の「原因」にこだわり、機械論的法則の影響を受けながらも、自然に体系的統一をもたらす合目的的な原理にこだわった。このように、膨大な自然のデータを処理するため、自然誌が時間化されて「自然史」となっていく時代において、博物学・哲学者たちは、各々の自然観に基づきながら理論化を進めた。すべては経験的観察の積み重ねだと考える者、機械論的法則にすべてを還元する者、有機的統一にすべてを同化させる者など、多様な博物学のアプローチ方法の集積を紐解いていくことは、近代におけるカント人種論の位置付けを明らかにするだけでなく、現代生物学にいたるまで、いかに「人種(種族)race/Rasse」概念が捉えられて来たのかを考察するための土台となる、と考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により、研究会などがすべてオンライン化し、研究会参加のための旅費分が余ったため。当該年度から次年度にかけて、物品費(主に図書資料などの消耗品)を当初の計画より多く使用していくこととする。
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