研究課題/領域番号 |
20K12783
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
李 明哲 神戸大学, 人文学研究科, 人文学研究科研究員 (00758485)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | カント / 地理学 / 人間学 / 批判哲学 / 合目的性 / 判断力 |
研究実績の概要 |
第一に、論文「カント人種論における合目的的体系 -批判哲学との関連-」が掲載された。この論文では、批判期のカント人種論が18世紀博物学のなかで形成した独自の内容と、批判哲学の発展とにどのような関連が認めら得るかを明らかにした。とりわけ、 カントが人種論の諸論点が、『判断力批判』「第一序論」における反省的判断力の原理、「自然の合目的性」概念の説明に関連づけられることを論じた。 第二に、カント人種論における人種差別的表現の問題を取り上げ、カントはいかにして、(骨格や肌の色など)人間の身体的特徴と、(性格や道徳性など)精神的特徴とを切り分けたり、切り分けなかったりするのかを問うた。人種概念に関連させた身体的特徴と精神的特徴は、地理学と人間学のなかで語られるが、1770年代以降、カントは地理学と人間学の区分(非連続性)が強調することもあれば、逆に一体となる可能性(連続性)が示すこともある。この点に観点からカント人種概念を再考し、学会発表ののち、論文「自然地理学と実用的人間学の連続性/非連続性 - カント哲学における人種概念をめぐって-」の掲載が決定した。 第三に、『判断力批判』第二部で、有機的個体すなわち「自然目的」の内的合目的性を判定する目的論的判定は、自然全体の理念によって、その対象が拡張されることに注目した。このような批判期カント有機体論の特徴を整理したうえで、 この有機体論が執筆された1790年前後のカントは、それ以前の批判期と比較して、ライプニッツとの関連が顕著に見出されることを依頼論文「批判期カント有 機体論についての試論―ライプニッツとの関連から」で執筆した。この論文では、カント人種論を直接取り扱わなかったものの、今後の自然目的論からの歴史哲学と、人種論との関係を論じる際の足掛かりとなる考察となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度の遅れを取り戻すかたちで、カント人種論と批判哲学の関係にかんする論文をはじめ、論文掲載が三本決定したことから、今後の研究は、採択当初の予定通り進められる見込みとなった。
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今後の研究の推進方策 |
(1)人種概念は、人間が「自然史」を探究するための統制的理念に過ぎないとカントが述べた点に着目し、その後のカント歴史哲学とカント人種論がいかに関連するかを考察する。『判断力批判』では、有機的存在にたいする自然目的論が、道徳的人間を自然体系外部の 「究極目的」とすることで、道徳的目的論のもとに統制される構想が登場する。このような自然から道徳への「移行」が描かれた批判哲学としての「歴史」認識の一方、政治哲学の著作では、人類が「世界市民」社会をつく るための法体制や「国際連盟」の樹立といった、もっぱら実践的な「歴史」認識が登場する。にも関わらず、それらが「自然の意図」や「自然の摂理」に よって達成されることが論じられる。こうした〈自然の歴史〉と〈人類の歴史〉の接続にかんする、「自然」概念の解釈をめぐる問題にたいして、カント人種論に軸を置いたアプローチを試みる。 (2)現代の視点から、カントの人種概念研究を活かすことを目指す。その際、カント人種論に含まれる人種差別的表現に寛容にならないことを前提に、単純な切り捨てではない総合的な意義の検証を行う。 第一に、西洋での人種概念の定着は、カントと同時代のブルーメンバッハによる五分類で知られているが、両者の異同を含め、18 世紀博物学 から 19 世紀生物学の過渡期において、カント人種論が持ち得る近代生物学史における位置付けを整理する。第二に、1950 年代以降の遺伝子工学の急激な発達による、「人種」概念の解体と再定義の動きのなかで、レヴィ=ストロースが苦悩した人種概念の科学的・社会的意味のジレンマを考察する。このことで、現代の人種概念の位置付けや特性の概要をまとめる。第三に、現代社会は、人種差別の多様さ・深刻さに比して、人種概念へのアプローチが不足している現状を指摘し、カントを踏まえた人種概念の理解が持ち得る現代的意義について考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
学会発表および論文執筆のために、関連図書・論文などの資料の購入が必要となる。研究会などがオンライン化したことで出張費が余り、物品費(主に図書資料などの消 耗品)を当初の計画より多く使用していくこととする。 年度内に、時期を見ながら、国内出張の機会を伺う。
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