研究課題/領域番号 |
20K12784
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研究機関 | 群馬県立女子大学 |
研究代表者 |
細川 雄一郎 群馬県立女子大学, 文学部, 講師 (60853190)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 情報の遮蔽 / 情報の開示 / 情報フロー / 様相論理 / 反事実条件文 / 直説法条件文 |
研究実績の概要 |
本研究の初年度(2020年度)において、本研究の課題名である「情報の開示/遮蔽の反事実条件法による倫理的評価」は、必ずしも「反事実条件法による」必要はなく、「直説法による」ものであってもよい、という見通しが得られた。つまり、本研究は、「もし適切に情報が与えられていたら/隠されていたら」という事後的で反省的な倫理的評価だけでなく、「もし適切に情報が与えられれば/隠されれば」という事前の予測的な倫理的評価にも拡張可能である、という見通しが得られた。 そこで令和3年度は、時間的なファクターを主とする条件文(=時間的条件文)に焦点を当てた場合には、(時間的な)反事実条件文も、(時間的な)直説法条件文もともに、A. N. プライアー以来の古典的な時制論理の自然な拡張(ハイブリッド時制論理)によって統一的に形式化できる、ということを示し、その成果を英語論文にまとめた。 そこでは特に、反事実条件法による時間的な推移的推論「(反事実的に)Aが起こっていたらBが起こっていただろう。(反事実的に)Bが起こっていたらCが起こっていただろう。それゆえ、(反事実的に)Aが起こっていたらCが起こっていただろう。」と、直説法による時間的な推移的推論「(これから)Aが起こればBが起こるだろう。(これから)Bが起こればCが起こるだろう。それゆえ、(これから)Aが起こればCが起こるだろう。」に対して、Brauner (2011) によるハイブリッド論理の自然演繹システムの拡張によって、ともに証明論的にも素直で厳密な証明図が与えられることが示された。しかもこのとき、後者(時間的直説法)は、前者(時間的反事実条件法)のむしろ特殊ケース(単純な場合)となっていることが、証明図から明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度も、2020年度に引き続き、新型コロナ感染状況拡大の影響により、当初予定していた本研究に関連する各専門分野の研究者への出張・訪問がほとんどかなわなかった。しかしその分、本研究の基盤となる様相論理体系の拡張・発展が進み、そのおかげで、本研究の目的である「情報の開示/遮蔽の倫理的評価」が、時間的なアスペクトから見れば、事後的で反省的な反事実条件文によってだけでなく、事前の予測的な直説法条件文によっても可能であり、そのことを A. N. プライアー以来の古典的な時制論理の自然な拡張(ハイブリッド時制論理)によって論理学的にも形式化・モデル化できるという、当初予期していなかった新たな展開につなげることができた。 これにより、本研究計画において代表者が (IAM) (Information-Action-Moralityの頭字語) と呼んだ、反事実条件文からなる三段論法「もし適切に情報が与えられていたら/隠されていたら、別様に行為していたかもしれない。もし別様に行為していたら、現実に起きた倫理的な誤りは起こらなかったかもしれない。それゆえ、もし適切に情報が与えられていたら/隠されていたら、現実に起きた倫理的な誤りは起こらなかったかもしれない。」は、直説法条件文からなる三段論法「もし適切に情報が与えられれば/隠されれば、別様に行為するかもしれない。もし別様に行為すれば、倫理的な誤りは起こらないかもしれない。それゆえ、もし適切に情報が与えられれば/隠されれば、倫理的な誤りは起こらないかもしれない。」にも拡張されつつ、その時間的なアスペクトについては、標準的で厳密な論理学的基礎を与えることができたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度と2021年度の研究成果によって、本研究の目的である「情報の開示/遮蔽の倫理的評価」、その時間的なアスペクトについては、当初の想定以上に標準的で厳密な論理学的基礎を与えることができた。しかし、「情報の開示/遮蔽」という部分にも明白に現れている、その情報論的なアスペクト、および、一方でこの情報論的アスペクトと、他方で時間的アスペクトとの絡み合いについては、すでに多領域様相論理(ダウンアロー演算子付き多ソートハイブリッド論理、MSHL+↓)の体系内で「時間遷移」と「情報遷移」を書き分ける技術的準備があるとはいえ、まだ厳密な形式化・モデル化には至っていない。 そこで2022年度は、いよいよ当初の研究計画の発端となった河合香織『選べなかった命――出生前診断の誤診で生まれた子』(2018) における「もし出産前にダウン症だとわかっていれば、途中で中絶していたかもしれない。もし途中で中絶していれば、息子があの苦しみを苦しむことはなかったかもしれない。それゆえ、もし出産前にダウン症だとわかっていれば、息子があの苦しみを苦しむことはなかったかもしれない。」という、問題の推論を本課題のパラダイム・ケースとしつつ、この極めて実存的で悲痛な三段論法の背後にあるだろう、時間的可能性と情報論的可能性、それらがおそらく何重にも重なり合った、複雑ないわば多重ハイブリッド様相(multiple hybrid modalities)を、論理学的に明示化して浮かび上がらせることを、今後の目標および推進方策とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度も2020年度に引き続き、新型コロナ感染状況拡大の影響により、当初予定していた本研究に関連する各専門分野の研究者への出張・訪問がかなわなかったため。その分、2022年度に、2021年度と同様、本研究のこれまでの研究成果を英語論文として国際学術誌へ投稿するための資金として運用する計画である。
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