• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2021 年度 実施状況報告書

ヒューム的アプローチによる認知的アクラシアの問題の分析

研究課題

研究課題/領域番号 20K12786
研究機関北海学園大学

研究代表者

鵜殿 憩  北海学園大学, 法学部, 准教授 (00814104)

研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2023-03-31
キーワードヒューム / 徳認識論 / アクラシア
研究実績の概要

今年度は、信念と行為をパラレルに論じることを可能にする議論を、ヒューム的な視点から構築する作業をより本格化させた。年度の前半では、「アクラティックな認識主体」という概念が、理解不可能ではないことを説明する理論的枠組みを探究した。この取り組みの中で、理性に従う「哲学者」と人間本性の認識に従う「一般人」の緊張関係についてのヒュームの記述を、豊川祥隆(2017)の先行研究を手掛かりにしながら精査した。また、ヒュームが、信念に対する否定的な議論を展開しつつ、経験的推論を用いて人間本性の探求に関わる建設的な議論を展開する、という一見矛盾を孕んだ議論を展開している点に関する解釈上の論争に対する吟味も実施した。年度の後半では、認識主体を、情緒的で社会的な存在として捉える、特殊なタイプの徳認識論的立場をヒュームに帰属させるKarl Schafer (2014)の解釈に注目し、彼の解釈に対していくつかの問題点を指摘した。そして、認識主体の行うべき判断が、認知的コミュニティの人々の期待や態度に依存的であり得るのかという点について考察した。さらに、ヒューム的な視点からのアクラシア論を、安楽死、脳死と臓器移植等の医療生命倫理の問題の研究に応用するための立脚点として、医療という特定の領域における責任ある意思決定のあり方についての先行研究をサーヴェイし、考察を深めた。
以上の成果の一部は、論文・書評および口頭発表を通じて発信された。なお、新型コロナウィルスの影響のため、国際学会での発表などの当初の予定は延期されている。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

今年度の進捗状況については概ね順調であると評価することができる。論文や口頭発表を通じて、本研究の成果を積極的に発信できた。2022年2月の北海学園大学思想史研究会第31回例会においては、アクラシアの問題が、集団レベルでの信念形成の合理性の問題と関係しているという洞察に対して、新たな視点から補強を実施した。また、同年3月のイギリス哲学会第46回大会での発表においては、認識主体の行うべき判断が、認知的コミュニティの人々の期待や態度に依存的であり得るのかという点について検討した。また、『北海学園大学学園論集』第187号に掲載の論文においては、ヒュームが自然主義者であり、かつ懐疑論者であることはいかにして可能かに関する、澤田和範(2021)の著書を論評する中で、ヒュームが展開した認識論の基本的な性格についての主要な論点を整理することができた。
以上の研究は、認知的アクラシア論の検討を通して、近世以来の哲学において重要視されてきた合理性、自由意志、理性等の諸概念の相互関係を整理する思想史的作業であると同時に、認知的アクラシアを巡る現代的論争の分析に貢献するより発展的な研究の遂行への展望を与えてくれるものである。

今後の研究の推進方策

今後においては、引き続き、認知判断についてのヒューム主義的モデルを構築し、その成果を認知的アクラシアの成立可能性の説明へと結びつける作業を遂行していく。令和4年度の前半は、古典的なアクラシアの問題と、認知的アクラシアの問題のパラレル性に注目しながら、認知的に悪徳な主体と認知的にアクラティックな主体を、彼らの持つ動機によって区別するための理論的な枠組みをヒュームのテキストの中に見出せるのかについて検討する。また、『人間知性研究』における「ピュロン的懐疑論者」に対するヒュームの特徴づけに着目することで、〈認知的にアクラティックな主体〉という概念をより理解可能なものにすることを試みる。年度の後半は、認知的判断能力と道徳的判断能力を「広義の状況把握能力」として位置づけ、それらが欲求の適切な制御や、適切な動機付けを必要とするかどうかについて分析を進める。さらに、認知的アクラシア論の検討を足掛かりに、現代の徳認識論が研究の焦点としている認知的徳の条件や知識の価値についての考察を展開する。
令和4年度は、研究の最後のまとめの年であるため、認知的アクラシア論を土台にした認知的徳の条件や知識の価値に関する研究の成果を、海外のジャーナルに積極的に投稿していく。また、単著書“Agency, Virtues and Responsibility in Hume's Epistemology(仮題)”の出版に向けて、原稿を鋭意執筆する。著書の出版に際しては、科学研究費研究成果公開促進費に応募したい。

次年度使用額が生じた理由

コロナ禍により予定していた海外での学会発表および調査を行うことができなくなったため。状況が改善した後に、学会発表および調査を行うための経費として使用する予定である。

  • 研究成果

    (5件)

すべて 2022 2021

すべて 雑誌論文 (2件) (うちオープンアクセス 2件、 査読あり 1件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件)

  • [雑誌論文] ヒュームの自然主義と懐疑主義について(上)2022

    • 著者名/発表者名
      鵜殿憩
    • 雑誌名

      北海学園大学学園論集

      巻: 187 ページ: 53-66

    • オープンアクセス
  • [雑誌論文] Measuring and Scaling Professional Decision-Making in Research ーFocusing on the Evaluation and Analysis of an Article Entitled “Professional Decision-Making in Research2022

    • 著者名/発表者名
      Kei Udono
    • 雑誌名

      Journal of Philosophy and Ethics in Health Care and Medicine

      巻: 15 ページ: 79-88

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] 認識的評価の社会的側面 ―徳認識論的ヒューム解釈を巡って2022

    • 著者名/発表者名
      鵜殿憩
    • 学会等名
      日本イギリス哲学会第46回研究大会
  • [学会発表] ヒュームの信念理論と認識的アクラシアの問題2022

    • 著者名/発表者名
      鵜殿憩
    • 学会等名
      北海学園大学思想研究会第31回例会
  • [学会発表] 『ヒュームの自然主義と懐疑主義』について2021

    • 著者名/発表者名
      鵜殿憩
    • 学会等名
      ヒューム研究学会第31回例会
    • 招待講演

URL: 

公開日: 2022-12-28  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi