研究課題/領域番号 |
20K12786
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研究機関 | 北海学園大学 |
研究代表者 |
鵜殿 憩 北海学園大学, 法学部, 准教授 (00814104)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ヒューム / 徳認識論 / アクラシア |
研究実績の概要 |
令和4年度は、昨年に引き続き、認知判断についてのヒューム主義的モデルを構築し、その成果を認知的アクラシアの成立可能性の説明へと結びつける作業を実施した。年度の前半は、古典的なアクラシアの問題と、認知的アクラシアの問題のパラレル性に注目しながら、認知的に悪徳な主体と認知的にアクラティックな主体を、彼らの持つ動機によって区別するための理論的な枠組みをヒュームのテキストの中に見出せるのかについて検討した。また、『人間知性研究』における「ピュロン的懐疑論者」に対するヒュームの特徴づけに着目することで、〈認知的にアクラティックな主体〉という概念をより理解可能なものにすることを試みた。ヒュームがピュロン的懐疑論者であり、かつ自然主義者であることはいかにして可能かという点に関して、澤田和範氏(2021)の著書『ヒュームの自然主義と懐疑主義』を参照しながら検討した。同書の論評を通じて、ヒュームが理解する認識的規範性についてより明確にすることができた。 年度の後半は、認知的判断能力と道徳的判断能力を「広義の状況把握能力」として位置づけ、それらが欲求の適切な制御や、適切な動機付けを必要とするかどうかについて分析を進めた。さらに、認知的アクラシア論の検討を足掛かりに、現代の徳認識論が研究の焦点としている認知的徳の条件や知識の価値についての考察を展開した。 以上の成果の一部は、論文を通じて発信された。なお、新型コロナウィルスの影響のため、国際学会での発表などの当初の予定は延期されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度の進捗はやや遅れている。今年度は、現代哲学において議論される「認知的アクラシア」の成立可能性について検討した。現代の認知的アクラシアの不可能性論に対して、ヒューム的見地から反論を行う作業は、まだ本格化したばかりである。ヒュームのテキストの読み直しを行うことで、認識的抑制と好奇心の間には内的な関係があるという主張を抽出できるという着想に至ったが、その成果を論文として公表することが早期に期待される。 なお、『北海学園大学学園論集』第188号に掲載の論文においては、澤田和範氏(2021)の著書『ヒュームの自然主義と懐疑主義』を論評する中で、ヒュームが展開した認識論の基本的な性格についての主要な論点を整理することができた。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度は、認知的アクラシア論を土台に、現代の徳認識論が研究の焦点としている認知的徳の条件や知識の価値についての考察を展開する。ヒュームが展開した認識論の基本的な性格についての主要な論点の整理と、先行研究の批判的検討を行う。徳認識論者に対する批判の一つに、彼らの焦点が「認識論的抑制 epistemic restraint」、すなわち知識の探求を控えることの重要性を無視または軽視しているというものがある。こうした批判への応答として、「好奇心curiosity」の認識論的役割に着目し、認識的抑制と好奇心の間には内的な関係があるという主張をヒュームから引き出せるという可能性を探求する。ヒュームは徳認識論の原型とも言うべき考えを提出する一方で、認識的抑制の重要性を無視しない、という点を明らかにしたい。 現代の心理学者は、好奇心を新しい知識を求め、獲得し、活用する動機であると説明している。好奇心と新しい情報に対する寛容さ(open-mindedness)は密接に関連するため、現代心理学の知見を徳認識論の研究に活用することは非常に有意義である。 令和5年度は、研究の最後のまとめの年であるため、認知的アクラシア論を土台にした認知的徳の条件や知識の価値に関する研究の成果を、海外のジャーナルに積極的に投稿していく。また、単著書“Agency, Virtues and Responsibility in Hume's Epistemology(仮題)”の出版に向けて、原稿を鋭意執筆する。著書の出版に際しては、科学研究費研究成果公開促進費に応募したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により予定していた海外での学会発表および調査を行うことができなくなったため。状況が改善した後に、学会発表および調査を行うための経費として使用する予定である。
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