研究課題/領域番号 |
20K12789
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
縣 由衣子 慶應義塾大学, 外国語教育研究センター(日吉), 助教 (30847869)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ミシェル・セール / 複数性 / フランス現代思想 / 第三項 / コミュニケーション論 |
研究実績の概要 |
ミシェル・セールの初期思想を読解する上での基盤となる読解の枠組みとして本研究では、「複数性」の概念を中心として研究を進めてきた。COVID-19の流行に伴い、当初予定していた渡仏しての調査研究が延期となった代わりに、国内で研究可能な初期文献を中心とした分析に基づき、2021年度の研究は進められた。2020年度の研究の成果として、2021年度4月に日本哲学会刊行『哲学』において論文「ミシェル・セールにおける「第三項排除 tiers exclu」と「混合体 corps meles」―弁証法に対する二つの批判的変型」が刊行された。さらに2021年度の研究成果としては、4月に慶應義塾大学教養研究センター基盤研究プロジェクト「文理連接研究会」において、「ミシェル・セール『パラジット』をめぐってー「寄食」から「感染」を見る」と題して発表を行い、セールの中期思想を代表とする著作『パラジット』について「感染」概念との関係から分析を行なった。また、5月の「日本哲学会第80回大会」において、複数性の概念をめぐり、初期思想から1980年代の中期への転換を告げる著作との関係を探る重要な分析として、その概念的連関および移行について「ミシェル・セールにおける第三項tiers概念の複数性」と題した発表を行なった。さらに、11月には、国際学会「Mimetic Inclinations: Gender, Philosophy, and Politics with Adriana Cavarero」において、カヴァレロとセールの身体論における思想的な連関について発表「How to lean a vertical posture -Read Cavarero from Michel Serres' notion of ‘Mingled body’」を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初予定していた渡仏しての調査研究および、海外研究者都の交流については前述の通りCOVID-19の流行により延期となり、調査による研究を進めることはできなかった。従って、本年の研究計画を途中で変更し、国内で可能な既刊の文献を「複数性」の概念のもとに分析し、他の思想家の著作と関連づけて比較検討することを目指した。その結果として、調査研究の基盤となるような初期および1990年代の文献研究を十分に進めることができ、その成果について海外学会を含め3回の研究発表を行い、その内容について、国内外さまざまな研究者との意見交換を行うことができており、全体的な進捗状況としてはおおむね順調にできているが、当初の研究計画にあった調査が完了していないため、「やや遅れている」とする。 当初の研究計画からは、小テーマとしていた「哲学史におけるセールの「複数」概念の位置づけ」「「複数」の概念をめぐる1990年代セール思想研究」については、ベースとなる文献に基づく研究を十分に行うことができ、その成果を発表することもできた。また、当初予定していた海外学会が中止になったことから、計画を変更し、国際学会での発表を行うこともできた。従って、本年度の進捗状況としては、研究計画を変更し、調査の前準備を十分に行い、その成果について学会などで検討できたことからも順調であったと言える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は延長申請を行ったことにより、研究の最終年度となるが、これまで延期されてきた渡仏しての調査を中心に研究を進めていくことを目指す。これまでの2年間で行なってきたセールの初期思想、中期思想の「複数性」の概念についての分析に関し、未刊行の資料などとの比較検討によって深めるとともに、2019年のセール逝去以降本格化したフランスのセール研究の動向を研究に反映させる予定である。さらに2021年度の研究発表の内容を論文として加筆し、関係学会誌に投稿する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた渡仏による調査研究が、COVID-19の流行により困難であったため、調査を次年度に延期せざるを得なかった。従って、その調査に伴う渡航費、滞在費、および調査に伴う文献購入費の支出を次年度に延期することとしたい。
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