研究課題/領域番号 |
20K12791
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
君嶋 泰明 法政大学, 文学部, 講師 (70846617)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 存在忘却 / ハイデガー / 真理としての存在 / アリストテレス |
研究実績の概要 |
本年度の目標は、技術批判論陣営の主張を網羅的にサーベイし、論点を整理することにあったが、コロナ禍の対応で校務に割くべき時間・労力が激増し、研究を思うように進めることはできなかった。しかし成果がなかったわけではない。本年度は、技術批判論陣営最大の思想家の一人であるマルティン・ハイデガーの技術論の根幹をなす「存在忘却」をめぐる思想について、一定の解釈を打ち出すことができた。 ハイデガーの技術論の特徴は、西洋形而上学全般に見られる「存在忘却」という傾向から現代技術の本質を理解しようとする点にある。それゆえ「存在忘却」そのものをいかに理解するかという点で立場を定めることは、本研究にとって不可欠な課題の一つである。「存在忘却」とは、ハイデガーが1930年代半ば以降に用いるようになる用語であり、文字通り、「存在」を「忘却」してしまう傾向が西洋形而上学のいたるところに存しているのをあばき出そうとするものである。ハイデガーは後には現代技術にまさにこの傾向を指摘することになるのだが、この点を理解するさいに一つの難点となるのは、「存在忘却」をめぐるハイデガーの言説の抽象性である。現代技術のいかなる点に「存在忘却」が見いだされるかを理解するためには、まずはその内実を踏み込んで解釈し、この厄介な抽象性をできる限り除去しておく必要がある。 本年度はそのような課題に取り組んだ。具体的には、1925/26年冬学期講義『論理学』におけるアリストテレスの「真理としての存在」についてのハイデガーの解釈を格好のテキストとして選択し、次のような結論に至った。「存在忘却」とは、人間が存在者の本質について特定の立場をとることに応じて、その立場決定以後の存在者が、それ以前の存在者の立場を襲って前面に出てくる運動を指す。この解釈により、現代技術の実情に即して「存在忘却」を考える糸口ができたと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当初の計画では、本年度のうちに技術批判論陣営のサーベイを終えることを目標としていたが、コロナ禍の対応に追われそのための十分な時間を確保できず、わずかにハイデガーをめぐる論点の一つを片づけるにとどまった。
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今後の研究の推進方策 |
ハイデガーの解釈に一定の見通しがついたことにより、座標軸ができ、批判論陣営のその他の思想家(マンフォード、エリュール、ウィナー、フィーンバーグ等)にも取り組みやすくなった。次年度は当初の予定通り、分析論陣営のサーベイに取り組みつつ、それとの関連で取捨選択しながら批判論陣営の論点も拾っていくことにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
必要な物品を必要な順序で購入していった結果、端数として生じた金額。本研究は大量の文献を購入する必要があることから、次年度で使用する物品費の足しにする予定。
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