研究課題/領域番号 |
20K12792
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
宮本 雅也 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 助手 (20802086)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 現代政治哲学 / 社会正義 / 平等 / 分配的正義 / 関係論的平等主義 / 運の平等主義 |
研究実績の概要 |
本研究は、現代政治哲学における関係論的平等主義と運の平等主義の論争を背景として、関係論的平等主義側に立ち、その正義の理論を構築することを目指している。運の平等主義は平等主義的正義の理論に責任の観念を取り入れる立場である。つまり、選択と運を区別し、その人の選択の結果は当人の責任として受け入れさせるが、運の影響で生じた帰結は当人の責任として受け入れさせることはできないとする立場である。これに対して、関係論的平等主義は、従来、分配よりも社会関係こそが正義にとって重要であると考える立場を意味するとされてきた。 現在までのところ、責任(道徳的責任)に関して社会構造の視点を導入することによって、これまでの正義論における責任の扱い方と、とくに運の平等主義における責任の理解とどのように理解が異なってくるかを検討した。運の平等主義の場合、責任はもっぱら個人の選択結果の受容として理解されている。つまり、運ないし偶然的要因の影響を受けていない「自発的選択」から生じた分配上の帰結を選択した当人に負わせるという責任である。これに対しては、個人の選択の背景に存在する社会構造に対する責任を考慮に入れることができないという点を指摘できる。つまり、不正義な社会構造のゆえに個々人が適切な選択ができない状況で、運の平等主義の責任理解に従う場合、当人の責任を免除することはできるが、その人も含めた社会のメンバーが社会構造の不正義自体を是正する責任を負うという考え方ができなくなってしまう。この点が、社会関係を重視する関係論的平等主義が運の平等主義に対して向ける有力な批判となる。 他方で、関係論的平等主義の側でも、「分配でなく関係」という仕方で自分たちの立場を理解してきたことが問題になる。本研究では、分配と関係の対立の点からではなく、「社会プロセス」を重視するという点から関係論的平等主義を理解できることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の通り、本研究は全体として関係論的平等主義の正義の理論構築を目指している。現在までの研究で、この理論構築のために重要となる二つの知見を得ることができた。第一に、これまでの分配的正義論における責任の理解では無視されてきた、社会構造をより正義にかなったものにする責任を考慮に入れて正義の構想を提示する必要がある。第二に、関係論的平等主義の正義構想を提示する際、分配の重要性を引き下げるのではなく、分配に関わる結果と関係に関わる結果を生じさせる社会プロセスに注目する必要がある。以上二点は、これから関係論的平等主義の正義構想を具体化するために非常に重要な知見であり、これらを明らかにすることができたことは大きな進展にあたる。
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今後の研究の推進方策 |
上記のような二つの知見を前提として、関係論的平等主義の立場が、より具体的にはどのような正義構想を提示できるのかを検討していく。第一に、社会構造をより正義にかなったものにしていく責任を認める場合、個人に構造を変革するために行為するように要求することが過剰な要求になってしまう可能性がある。この要求度の過剰性の問題にどのように対処できるかを考えていく。第二に、社会プロセスを重視する場合、個々人が結果としてどのような分配状態にあるかを重視する従来の正義論とどのように異なってくるかをより詳しく検討する。これには、結果(帰結)とプロセスとがどう異なるかという点や、プロセスはたんなる個々の行為の集積とみなしてよいのかという点の検討が含まれる。
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