本研究は、現代の社会正義論において有力な立場となりつつある「関係論的平等主義」を研究するものである。関係論的平等主義の正義の理論を、その方法上の立場の理解から実践的なレベルにおける含意まで、一貫して解釈・構築しようとしている。 方法上の立場に関しては、関係論的平等主義の立場は、ジョン・ロールズやトマス・スキャンロンらの「契約主義」と類似したものであることを明らかにした。その結果、関係論的平等主義に対する従来の理解が正確ではないことが示された。すなわち、従来は関係論的平等主義は財・資源の「分配」ではなく、「社会関係」を重視する立場であるとされてきた。しかし、契約主義的な相互正当化プロセスを採用するのが関係論的平等主義の立場であるとすれば、分配の重要性を引き下げる必要はなくなる。他方で、最終的な状態としての分配パターンに着目するのはやはり適切ではなく、分配や社会関係が生成していくる社会の動態的プロセスに着目して正義の要請を課すべきである、ということになる。 さらに、以上のような関係論的平等主義の立場に依拠して、以下の二つの面におけるその実践的な含意を研究してきた。第一に、教育に関する制度・政策に対する規範的指針の提示を、教育社会学の研究者と協力して研究した。その成果として、教育システムが有する「社会化」の機能により注目して、全員に対する能力付与を中心に教育システムを捉えなおすべきであるという議論を展開した。第二に、フェミニズム・ジェンダー研究、とくに「ケア」の問題に関する規範的含意も研究してきた。その結果、ケアの責務に対する関係的理解を提示することができた。また、リベラルな正義原理には、ケアに対する公共的なサポートを指令する原理の追加が必要であるという点も明らかにすることができた。
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