研究の初年度は、準備的段階として、主に現代人類学の全般的状況に関する文献研究を行った。特にフィリップ・デスコラの主著である『自然と文化を越えて』の合評会を通じて、現代思想における哲学と人類学の交叉可能性について、さまざまな研究者と多角的に意見交換することができた。 研究の第二年度は、前年度の準備を踏まえ、デスコラが提示し、大きな反響を呼んだ独自の図式論(各民族が世界を理解するさまざまな方法)について、主にモーリス・メルロ=ポンティに由来する哲学的な文脈を掘り起こし、現代人類学と野生概念の哲学的関係性を明確にした。 研究の最終年度は、総括として、二つの方向からこれまでの議論をまとめた。第一に、現代人類学の根底に流れるクロード・レヴィ=ストロース以来の構造主義的傾向を明らかにし、野生をめぐる人類学的思考の新しい局面についてまとめた。第二に、従来論じられることの少なかったメルロ=ポンティの現象学的思考と人類学との積極的な関わりについてまとめ、現代人類学にまで繋がる問題の哲学的起源を探った。これらは一般的な書籍の形で発表され(『構造と自然』および『あらわれを哲学する』)、広く議論を喚起することができた。 以上の成果によって、メルロ=ポンティとレヴィ=ストロースの思想的交流に基づいて現代人類学における主要動向である存在論的転回について解明するという本研究の目的は十分に果たされたが、同時に、さらに本研究の延長線上に位置づけられるべき問題設定として、哲学的言説の在り方をめぐる議論の必要性が浮かび上がってきた。これについては、従来論じられてこなかったメルロ=ポンティとモーリス・ブランショの関係を主題としてまとめ、今後の研究の道筋を示した(「語らぬ言葉:メルロ=ポンティを読むブランショ」)。
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