研究課題/領域番号 |
20K12803
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
矢崎 長潤 名古屋大学, 人文学研究科, 博士研究員 (90855446)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | チャンドラゴーミン / チャンドラ文法学 / パーニニ / パタンジャリ |
研究実績の概要 |
本研究は、仏教文法家チャンドラゴーミンによって確立されたチャンドラ文法学に対する基礎研究の充実を目的とし、『チャンドラ文法』に対する未出版の注釈書『チャンドラ文法詳解』第1巻第3章の校訂本を作成し、出版を目指す。また、この基礎研究によって得られた新知見に基づいて、インド伝統文法学の伝統形成に対するチャンドラ文法学の影響について考察していく。 本年度は、二名の外国人研究者D.ディミトロフ博士(フィリップ・マールブルク大学、ドイツ)とM.デオカル教授(サヴィトリヴァイ・プレ・プネー大学、インド)と共同して『チャンドラ文法詳解』第1巻第3章の校訂研究を進めた。本研究では、スカイプ(インターネット通話サービス)を使用してコンピューター画面を共有しながら、組版ソフトウエアを利用してテキスト入力を行い、最終的な印刷イメージを意識しながら作業を推進している。基礎文献『チャンドラ文法』については、刊本(B. Liebich. Candra-Vrtti. Der Original-Kommentar Candragomin's zu seinem grammatischen Sutra. Leipzig, 1918)で使用されている2本の写本に加えて、それらとは異なる写本系統に属し、また書写年代が古いと目される3本の写本を校合し、また、注釈書『チャンドラ詳解』については、2本の写本に基づいて作業を進めた。さらに校訂研究から得られた知見に基づいて、チャンドラ文法学とパーニニ文法学との関係性などに関する研究発表を3回行い、学術雑誌に2本の論文を投稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナウイルス感染症の影響により、2020年度に予定していたプネー大学(インド)での研究を断念せざるを得なかったが、スカイプを利用して上述の外国人研究者と共同研究を進めた。本年度は、予定通り、基礎文献『チャンドラ文法』(第1巻第3章)と『チャンドラ文法詳解』(同章)とのテキスト校訂を完了した。校訂作業を進めるうえで、『チャンドラ文法』と『チャンドラ詳解』とに基づいて著述されているパーリ語文典『モッガラーナ文法』(11世紀)を参照して両文献におけるパラレルの箇所を同定し、校訂作業に活用した。 また、インド伝統文法学の伝統形成に対するチャンドラ文法学の影響について以下の点を論じた。(1)パーニニ文法学者のカイヤタ(11世紀)は、パタンジャリの『大注釈』に対する注釈書『灯明論』のなかで、チャンドラ文法学に対する批判を展開している。このことは、チャンドラ文法学が、当時のパーニニ文法学者のなかで周知のものとなっていたこと、それがパーニニ文法学の伝統形成に影響を与えていたことを示唆する。(2)規則の簡略性に関する議論を展開した文法学者たち、すなわちチャンドラゴーミン、ジャヤーディトヤ、ジネーンドラブッディ、そしてラトナマティは、いずれも仏教徒であった。仏教徒はパーニニ文法学とチャンドラ文法学とを支持する立場に分かれるも、かつてヴェーダの補助学としてバラモンたちの占有物であった知識体系を手中に収めており、パーニニ文法学の伝統形成と発展とに関与していたことが推察される。
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今後の研究の推進方策 |
上述の二名の外国人研究者と校訂テキストを再読して校正作業をすすめる。これにより校訂テキストの完成度を高めていく。とくに組版ソフトウエアを利用してテキスト入力を行っていくなかで、いくつかの表記ゆれが生じているので、これらを修正していく。また、次年(2021)度には上記の研究に加えて、チャンドラ文法学に関する先行研究を網羅的に渉猟した、今後の研究のための基礎的研究を提供する研究書の出版を準備している。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス感染症の影響により、2020年度に予定していたプネー大学(インド)での研究を断念し、同様に2020年8月に韓国(ソウル)にて開催予定であった国際仏教学会が2022年8月に延期となりこれらに関わる旅費を使用しなかったため、次年度使用額が生じた。次年度(2021年度)には、複数の英語論文の校正作業に対する費用、および2021年1月にオーストラリア(キャンベラ)にて開催予定の国際サンスクリット学会における研究発表が採択されたため、これに対する旅費支出を予定しており、次年度支給額は残らないと予想している。
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