研究課題/領域番号 |
20K12805
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
岡田 英作 愛媛大学, 教育学研究科, 特定研究員 (90824144)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | インド仏教 / 瑜伽行派 / 種姓 / gotra / 瑜伽師地論 / 菩薩地 / 大乗荘厳経論 / 注釈文献 |
研究実績の概要 |
インド大乗仏教の瑜伽行(ヨーガの実践)派の種姓(素質)説は、大乗仏教圏における修道論や救済論を議論する上で欠かすことができず、インドのみならず中国・日本仏教にも多大な影響を与えている。しかし、その史的展開が十分に考慮されてこなかったため、瑜伽行派の中期で積極的に採用されなくなった種姓説が後期で再論される点について問題視されることはこれまでなかった。本研究は、瑜伽行派の中期から後期への種姓説の史的展開に着目する。初期瑜伽行派の文献の中で種姓を主題として取り上げる『瑜伽師地論』「菩薩地」ならびに『大乗荘厳経論頌』と、両論に対する中期・後期瑜伽行派の注釈文献とを対象として、種姓に関する記述を回収・分析することで、注釈史という点から、瑜伽行派における種姓説の思想的変遷を明らかにすることを目的とする。 研究の第1年度(令和2年度)は、研究環境を整えるために瑜伽行派研究関係の図書や原典資料を揃えつつ、まず初期瑜伽行派の文献として、『瑜伽師地論』「菩薩地」の種姓に関する記述を回収・分析を行った。「菩薩地」のうち、種姓が主題の第1章「種姓品」を中心に読解したが、種姓に関する言及のある他の章との関係性にも注意を払った。具体的には、第2章「発心品」・第6章「成熟品」・第8章「力種姓品」・第18章「菩薩功徳品」・第22章「住品」をはじめとした計16章における種姓に関する記述を回収し、「種姓品」を中心とした「菩薩地」における種姓説の全体像の把握に努めた。以上の「菩薩地」の種姓に関する記述については、サンスクリット語・チベット語訳・漢訳の対照テキストを作成した上で、翻訳を行っており、こうした研究成果の発表に向けての準備を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
『瑜伽師地論』「菩薩地」には、種姓が主題の第1章「種姓品」だけでなく、論書全体にわたって種姓に関する記述が散見される。「種姓品」の読解に際しては、種姓に関する言及のある他の章との関係性にも注意を払い、「種姓品」を除く計16章における種姓に関する記述を網羅的に回収することができた。「菩薩地」の種姓に関する記述については、サンスクリット語・チベット語訳・漢訳の対照テキストを作成した上で、翻訳を行っており、次年度に実施する「菩薩地」に対する注釈文献を読み解くための準備を進めている。 ただし、当初予定していた「菩薩地」のサンスクリット原文を再校訂するための海外への写本の収集・調査ならびに他大学や図書館への資料収集に関しては、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、十分に行うことができなかった。こうした事態に対処するため、サンスクリット語写本資料については、ウェブ上や国内で入手可能なものから順に情報を加えて、テキストを作成の上、研究を進めている。また、他大学や図書館への資料収集についても、まずは購入可能な資料から手元に揃えつつ、他大学の研究者と連絡を取り合うことで、学術雑誌に掲載されている論文などの資料を収集することができた。 以上のように、予期せぬ事態が発生し、当初の予定を変更した部分もあるが、研究の進捗状況を総合的に判断すると、現在までの本研究課題の進捗状況については、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
第2年度(令和3年度)は、第1年度に引き続き、『瑜伽師地論』「菩薩地」のサンスクリット語写本を用いたテキスト研究に取り組む。そして、それと並行して、当初予定していた「菩薩地」注釈文献における種姓説の研究に入る。「菩薩地」注釈文献はチベット語訳のみ現存しており、チベット語訳テキストを主に扱うことになるため、チベット大蔵経のテンギュルから必要な資料を揃え、「菩薩地」注釈文献の種姓に関する記述を回収・分析する。具体的には、『菩薩地注』・『菩薩地解説』における種姓に関する記述について、「種姓品」に対する注釈を中心に回収し、テキストを校訂・翻訳の上、分析を加えることを予定している。また、瑜伽行派の注釈文献における種姓に関する研究成果の一部を発表することを予定している。
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