研究課題/領域番号 |
20K12807
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研究機関 | 大正大学 |
研究代表者 |
横山 裕明 大正大学, 綜合仏教研究所, 主任 (20794043)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 底哩三昧耶王系経軌 / 日常的実践 / Trisamaya / 日常勤行法則 / 不動讃 / 密教行者 / 出家修行者 |
研究実績の概要 |
本研究2年目にあたる2021年度は、研究課題の核心部分にあたる出家修行者の生活規範と社会的ステータスの解明に関して本格的な研究に入った。1年目に構築した『底哩三昧耶王経』と『底哩三昧耶王成就法』の読解と概要の理解という研究の土台に基づいて、出家修行者の生活や日常的な実践、社会との関わりを明らかにしていく作業である。両文献において該当する文章を纏めた上で、周辺典籍における類似する記述との比較検証をおこなった。その結果、『大日経』や『アーディカルマプラディーパ』など様々な文献との関係が想定していた以上に明らかになってきた。 その研究成果として、まずは密教行者の日常勤行法則について日本密教学会において学会発表をおこなった。これは『底哩三昧耶王経』の冒頭部分に見られる基礎的な勤行法則が、『底哩三昧耶王成就法』にいかなる形で取り込まれたのかを明らかにしたものである。また、その一部内容は後期密教時代のテクストである『アーディカルマプラディーパ』にも見出すことが可能であるため、底哩三昧耶王系経軌だけに留まらず、より広い範囲の密教行者の日常的実践に結びつく要素を含むものであることを明らかにした。 次に真言密教において重要な声明の一つであり、不動明王を讃嘆する「不動讃」の梵文還元について豊山教学大会において学会発表をおこなった。不動讃の典拠は『底哩三昧耶王経』の関連文献である『底哩三昧耶念誦法(または『不動使者念誦法』。弘法大師空海は『底哩三昧耶経』として請来)』に求められるが、そのサンスクリット原文については漢訳からの梵文還元に頼らざるを得なかった。ところが『底哩三昧耶王成就法』の中にほぼ合致するサンスクリットが確認できたため、本経である『底哩三昧耶王経』の該当チベット語訳も対照させた上で梵文還元の再考を試みた。 また『底哩三昧耶王成就法』全体の校訂テクストと訳註も公表に向けて順調に進んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウイルス感染症の影響により様々な制限を受けたが、文献の読解と訳註の作成は予定通りに進んでいる。また、当初想定していなかった課題と成果も次々と明らかとなり、学会発表や投稿論文によって順次それらの成果の公表を進めている。新型コロナウイルス感染症の影響により当初計画していた国内および海外への出張が叶わず、関連写本類や文献等の資料収集とその活用という点では十分とはいえないが、研究の進捗はおおむね順調といえる。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き『底哩三昧耶王成就法』の校訂テクストと和訳の作成を進める。本経である『底哩三昧耶王経』はチベット語訳に頼らざるを得ないため、サンスクリット写本とチベット語訳の確認できる『底哩三昧耶王成就法』が『底哩三昧耶王経』を読解する上での補助テクストとして有用であることは当初計画の通りである。しかしながら、当文献のサンスクリットおよびチベット語の異訳を通じて『大日経』や『アーディカルマプラディーパ』など様々な文献との関係が想定していた以上に明らかになってきた。『底哩三昧耶王経』と『底哩三昧耶王成就法』を中心に研究の視野を広げていき、様々な関連文献に基づいて多角的に出家修行者の生活規範と社会的ステータスの解明に取り組む。
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