本研究は、後期中観派のカマラシーラ(8世紀後半)の止観論を起点に、チベット仏教前伝期に至る過程での受容と展開を検討するものである。特に彼からの影響が確認できるヴィマラミトラ(8世紀後半)著Rim gyis 'jug pa'i bsgom don(Rim gyis)とジュニャーナキールティ(9世紀頃)著*PAramitAyAnabhAvanAkramopadeza(PYBhKrU)を取り上げ、文献学的に解読することで、当時の止観論に関する思想展開の解明に寄与することを目的とする。 本年度は、前年度に続き、Rim Gyisの止観の実践過程及び出定後の状態に関する議論の、蔵語訳諸本間の異読調査、テキスト校訂及び試訳を進めた。Rim Gyisは主にカマラシーラ著『修習次第』中篇に依拠するが、止観に関する議論では『修習次第』後篇との並行関係も確認された。また既に研究を進めてきていたPYBhKrUは『修習次第』初篇を基本的に踏襲する傾向にあり、この点でRim Gyisと異なるため、両者間での直接的な影響関係を指摘することは難しい。しかし、止観に関する記述に関し、両者共『修習次第』後篇に基づく記述が確認でき、8世紀後半以降の後期中観派の流れを汲む止観論において『修習次第』後篇の持つ影響力が確認できた。また、今後、広範な時代を対象に思想史を検討する際の1つの基準とすべく、上記二論書の止観論中で引用される経論群の整理も進めた。なお本研究の成果の一部を、自身も関わる内閣府ムーンショット型研究開発制度・目標9に提供している。 本研究で取り上げた二論書は蔵語訳のみが残るもので、読解には慎重を期す必要がある。また研究環境の変化等もあり、当初計画より作業が遅れてしまった。今後は研究環境を整えつつ、着実に研究を前進させたい。なお、次年度以降にRIm Gyisの校訂テキスト及び試訳の公開を計画している。
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