研究課題/領域番号 |
20K12815
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
岡本 圭史 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 研究員 (90802231)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ペンテコステ派運動 / 妖術 / モダニティ / 新自由主義 / ミジケンダ / ケニア |
研究実績の概要 |
申請時に計画していた2020年度の現地調査に関しては、COVID-19の影響により延期を余儀なくされた。そのため、ケニア海岸地方のキリスト教や妖術についての先行研究を検討すると共に、アフリカ諸国における悪魔崇拝言説の現状や、その20世紀以降の西欧諸国における類似の言説との関連について文献研究を行った。現代アフリカにおける悪魔崇拝言説は、妖術ないし憑依霊という既存の霊的存在のいわば異形として捉えられる傾向にある。その一方で、著述家Taxil(1854-1907)の活動に遡及し得る19世紀後半フランスにおけるsatanismeや、Satanic Bible(1969)の著者であるAnton Lavey(1930-1997)等を経たアメリカにおける悪魔崇拝言説の展開も無視しえない(Medway 2001 Lure of the Sinister. NYU Press)。こうした状況を考慮し、現代アフリカの悪魔崇拝言説を、20世紀西欧社会の悪魔言説との関連において捉え直すことを試みた。現段階での成果について、2020年5月の日本文化人類学会第54回研究大会及び、同年9月の日本宗教学会第79回学術大会において口頭発表を行った。 更に、感染症と宗教というCOVID-19によって改めて注意を喚起された論点の再考をも行った。アフリカ諸地域におけるマラリア及びAIDS/HIVと妖術ないしキリスト教との関連を扱った医療人類学的研究を検討すると共に、ドゥルマ社会における病いの経験についても、これまでの調査資料と先行研究を基に検討を加えた。更に、治療過程における不確実性や財産を可視化する場としての病院を、多元的医療体系の一部としてのみならず、妖術言説を活性化する媒介として捉え直すことを試みた。感染症と宗教をめぐる研究の成果についても、2021年度の公刊を予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
COVID-19の感染拡大に伴う現地調査の延期は、現地調査に基づく研究課題に共通する。こうした困難が存在する中、日本文化人類学会及び日本宗教学会における口頭発表を通じて、現段階での研究成果を公表し得た。また、アフリカ諸国の悪魔崇拝言説とその現代西欧における類似の言説との関連について一定の示唆が得られた。更に、2020年度には、アフリカおよび西欧における悪魔言説の文献研究を基に、ドゥルマ社会やその他のアフリカ諸地域における悪魔崇拝言説を、妖術や憑依霊のみならず、20世紀成功社会における類似の言説との関連において捉え直した。これらの研究成果に関しては、2021年度にも公刊を予定している。以上のことから、2020年度の研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
初年度(2020年度)の研究成果を基に、2021年度には以下の方針の下に研究を推進する。 1.ドゥルマ社会の現地調査:当該年度に現地調査が可能となった場合には、ドゥルマ社会における悪魔崇拝言説の現状をフィールドワークを基に調査すると共に、その出稼ぎ民の生活実践やその他の経済活動との関連についても検討する。また、新興感染症であるCOVID-19のドゥルマ社会における病いの経験の中の位置や、その妖術や悪魔、憑依霊の観念との関連についても検討を加える。 2.悪魔崇拝言説の比較研究:2021年度の現地調査が依然として困難であった場合には、文献研究を基に現代西欧の悪魔崇拝言説の伝播過程を辿ると共に、その20世紀後半以降のアフリカ諸国における悪魔崇拝言説との関連についての検討に注力する。上記の現地調査が実現した場合にも文献研究を継続し、現地調査の知見に対するより正確な理解を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度の現地調査がCOVID-19によって延期を余儀なくされたため、主な用途であった旅費や人件費・謝金を執行しなかった。文献研究には既存の資料を活用し、当該年度の使用を控えた。次年度使用額については、主に2021年度以降の現地調査の費用として用いることを予定している。
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