研究課題/領域番号 |
20K12815
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
岡本 圭史 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 研究員 (90802231)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 存在論 / 心的表象 / 呪術 / 科学 / 都市 |
研究実績の概要 |
宗教現象の再画定という本研究課題の基礎となる理論的考察として、スペルベルの提示する唯物論的存在論とヴィヴェイロス・デ・カストロ(VdC)による存在論的転回の、シュッツの現象学的社会学を媒介とした架橋を行った。その成果は国際雑誌掲載の英語論文として、2023年度に出版される予定である。同論文においてはまず、認識論から存在論への転回を解くVdCの議論が世界概念の比喩的用法に依拠することを示すことを通じて、一見相反するかに見える2人の著者の存在論を同一の議論において考慮し得ることを示した。次に、脳内における心的表象の保持への焦点化を通じて社会科学に唯物論的基礎を置こうとするスペルベルの議論の批判的発展に向けて、認知心理学の成果やシュッツの議論を援用しつつ、脳内はおろか特定の社会において信念ないし知識としての保存場所を見出しえないような暗黙の前提を、実際に流通する言説の基底に想定し得ることを示した。同論文に続く議論においては、自然法則の世界とネイティブの生活世界という2種類の世界へとネイティブ、科学者、人類学者がそれぞれの方法で接近するという視点を提示しており、その成果となる論文に関しては、2023年度内の国際雑誌への投稿を計画している。同論文には本年度に実施したドゥルマ社会におけるフィールドワークの成果も含まれる予定である。トウモロコシを中心とした農耕は年間2回の雨期にすらしばしば欠落する降雨に大きく依存しており、局所的な降雨は同一地域においても収穫の成否が分かれるという結果を招く。土壌や除虫のための薬草等をめぐる知識よりも降雨の場所と時期に農耕の成否が依存する状況において、主にジネと呼ばれる憑依霊が都市部の富者の表象として語られる。こうした状況をめぐる人々の語りから、都市農村連続型のネットワークが展開される実際の都市と表象の中の都市を共に考慮する必要性が現地調査から示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
前年度までの一連の研究成果に加えて、今年度には国際雑誌に投稿した英語論文が受理され(Okamoto forthcoming Apparently Contradicted Ontologies. Anthropos. see also 岡本 2022「書評へのリプライ」『宗教と社会』28巻)、2020年度以降の理論的研究について一定の成果が得られたと判断される。更に、呪術、宗教、科学の3領域に対するネイティブ、科学者、人類学者という三者のそれぞれの視点を包括的に捉える視点が、同論文及びその続編となる投稿予定の英語論文において開拓されつつあることは、宗教現象の再画定という本研究の当初の研究課題の更なる展開を実現したことを示している。ここで開拓されつつあるのは、ネイティブ、科学者、人類学者の三者がそれぞれの方法で自然法則の世界と各自の、あるいは他者の生活世界という2種類の世界に接近するという視点である。更に、2020年度以降実現困難であったケニアでの現地調査が本年度に実現し、その際に収集された妖術と農業をめぐるドゥルマの語りが、上記の構想に基づく論文を支える現地資料として使用可能である。更に今回の調査を通じて、2つの方法で概念化される世界に対する人々の語りを、実際の都市と表象の中の都市という区分を通じて発展させるという視点が得られた。本研究課題を通じて宗教人類学と都市人類学の新たな架橋が構想されつつあることもまた、本研究課題が当初の課題以上に進展していると判断する理由である。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度にはケニアでの現地調査を続行し、都市農村連続型のネットワークの運用主体であるのみならずその空白地帯における都市表象の語り手として人々を捉えることを目指す。農村部における都市表象と都市住民による霊的世界の語りを共に視野に含めると共に、人類学者の視界にはやや入りにくい都市部の若年層の提示する語りをも考慮することを目指す。宗教人類学においては都市住民ネットワークが、都市人類学においては霊的存在ないし呪術的世界への人々の関心が背景に後退するという状況において、民族誌的調査を通じた二領域の架橋を通じて、宗教現象の再画定という当初の研究課題を発展させることを試みる。現地調査が困難であった2020年度及び2021年度の理論的研究の成果を2022年度及び2023年度の現地調査の成果と統合させつつ――可能な限り最終年度中に――その成果を公刊する。
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次年度使用額が生じた理由 |
現地調査が実現可能となったのが2022年度の後半であったため、当初の予定よりも本年度における旅費の執行額が減少した。文献研究や理論的研究には既存の資料をも使用した。次年度使用額に関しては、2023年度の現地調査の費用として用いる予定である。
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