最終年度である2023年度には、ケニアでの補足的な現地調査と文献研究を通じて、本研究課題の総括及び今後の展開へと向けた準備を行なった。研究期間全体の主要な成果は、宗教概念の西欧的出自を検討する系譜学的アプローチを、文化への自然主義的アプローチを説くDan Sperberの議論と共に、民族誌的宗教研究にある程度まで再統合し得たことである(Okamoto 2023; 岡本 2021)。加えて、23年度までの研究全体を通じて、以下の2点の新たな研究課題を提示し得た。(1)第一の新規課題は、現代アフリカ都市における宗教とモダニティのダイナミズムをめぐる民族誌的探究である。農村の親族ネットワークの延長線上にありつつもそこからの断絶をも時に示す現代アフリカ都市の人的ネットワークの中でキリスト教が占める位置の解明が、ここでの主要な問題となる。(2)第二の新規課題は、心的表象が脳内の認知的処理や言語的コミュニケーションにおける処理対象・伝達対象であるに留まることなく、宗教的行為に関わる人々にとって霊的他者の構成要素ともなるという状況を捉える方法論の開拓である。この課題に取り組む端緒となるのは、SperberとWilsonの関連性理論を基礎としつつコミュニケーション概念自体を拡張すると共に、この理論的考察の成果を民族誌的な宗教現象の調査と接続することである。23年度には、現地調査に加えて、第一の新規課題をめぐる今後の研究に向けた、アフリカ・キリスト教や現代アフリカの都市人類学についての文献研究をも行なった。更に、第二の新規課題との関連においては、関連性理論や心的表象をめぐる近年の議論についても検討を加えた。23年度の現地調査と文献研究の成果に関しては、24年度の国内学会での口頭発表及び国際学術雑誌への英語論文投稿を予定している。
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