研究課題/領域番号 |
20K12817
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研究機関 | 南山大学 |
研究代表者 |
斎藤 喬 南山大学, 南山宗教文化研究所, 講師 (40721402)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 怪談 / 憑依 / 表象 / 宗教文化 / 精神医学 / 憑き物筋 / 狸憑き / 八百八狸 |
研究実績の概要 |
令和三年度は、憑依現象をめぐる宗教文化の精神医学化についてのケーススタディとして「伊予の八百八狸」を取り上げ、主に以下の二項目について調査を行った。 (1)明治期の日本精神医学における憑依概念の再検討 昨年度は、伝統的な宗教文化における「狐憑き」を近代的な精神病としての「狐憑病」と診断する精神医学者たちの言説について、特に四国の「狸憑き」との関連で調査した。今年度はそこからさらに、四国では特に「犬神憑き」あるいは「蛇憑き」として今日おいても現象することのある家筋としての「憑き物筋」について、文献収集や資料分析を行っている。同じ地域で異なった動物の憑依が見受けられる場合には、社会的機能に応じて「憑き物」と「憑き物筋」が明確に使い分けられる場合があるため、下記「伊予の八百八狸」信仰の調査を進める上でも、こうした観点に基づいて幅広く先行研究を検討することが必要であった。 (2)出版された口演速記本を根拠とする「伊予の八百八狸」信仰の調査 愛媛県松山市に現存する「山口霊神」は、講談『八百八狸』に登場する妖怪狸の隠神刑部(いぬがみぎょうぶ)を祀ったものであるとされるが、今日の信仰においては明治から昭和にかけて出版された口演速記本の記述が根拠となっている。特に言及されることが多いのは田辺南龍口演のもので、当然のことながらこれらは講釈師による都市部の聴衆に向けられた完全な創作物でありながら、伊予の狸憑きを前提とする宗教文化のなかで現在まで当地の信仰活動を支えている。また、『八百八狸』の物語には先行する文芸作品が巧みに取り込まれているのだが、そこにはさらに当地の宗教文化に根差した「狸憑き」の表象が見て取れる。八百八狸信仰の宗教文化的背景については、調査結果を2022年度内に印度学宗教学会の学会誌『論集』に投稿している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和二年度に引き続き、憑依現象を病理として診断する精神医学者の言説に関する調査を実施した。研究課題において直接の対象となるのは明治期の言説だが、日本の精神医学史における憑依概念の変容を視野に入れて、令和三年度ではより広い範囲で先行研究の調査を進めてきた。この目的は、精神病理として一般概念化した憑依現象ではなく地域限定の宗教文化としての憑依現象のケーススタディを進めるためであり、さらには民俗学の憑依研究と精神医学の憑依研究との接続を図るためである。令和四年度においては、動物憑依の精神医学化の問題について日本の事例と海外の事例を比較できるよう調査を進めていく。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画に基づいて、令和四年度では「狼憑き」「悪魔憑き」などといったヨーロッパにおける憑依現象の具体的な事例を参考にしながら、宗教文化の精神医学化について比較検討できるよう準備を進めていく。そこでは特に、明治期に日本の精神医学者たちが学んだヨーロッパの理論を参照しながら、彼らがそれを日本の憑依現象にどのように当てはめているかを調査していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和三年度も引き続き新型コロナウィルス感染症の蔓延によって、学会・研究会への参加が基本的にオンラインになったことから、当初の研究実施計画において計上していた旅費などを資料購入費に当てることにした。その結果として、次年度使用額に差額が生じている。令和四年度においても、世界における感染状況を見極めながら、計画に基づいて研究活動が遂行できるよう対応していく。
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