令和五年度は、憑依現象をめぐる宗教文化の精神医学化について、これまでの研究成果を総括する学術論文集の出版準備を進めるとともに、論文等で研究成果を発表した。 (1)令和四年度からこれまでの研究成果を総括することを目的に、学術論文集の出版準備を進めてきた。そこには、すでに発表した研究成果、たとえば明治期精神医学における「憑依」概念、あるいは阿波の「狸合戦」や伊予の「八百八狸」についての論文だけでなく、さらに落語・講談の口演速記「四谷怪談」に関する書き下ろし論文二編を含む内容となる予定であった。しかしながら、原稿の準備が整いつつある中で、事前に話し合っていた出版社から書籍の内容や刊行の時期について突然の異議があり、最終年度内で出版することは不可能となった。 (2)上記以外の研究成果として、『現代宗教2024』に鈴木光司『リング』における「憑依」と「供養」の概念を考察する論文を発表した。そこでは、1970年代以降のオカルトブームに関する先行研究を踏まえながら、映画作品にはない小説版『リング』の特異性について、特に「宗教リテラシー」の観点から検証している。そのため、〈モダンホラー〉の宗教性が、ここでの問題となっている。さらにまた、論文では「感染ホラー」と「幽霊ホラー」という比較を行っているが、この前提には、これまで取り扱ってきた落語・講談の『四谷怪談』と歌舞伎の『東海道四谷怪談』との比較検討がある。
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