本研究では、近代日本の宗教思想家、綱島梁川と彼を慕う人々の宗教への帰属意識をカトリーヌ・コルニールの「複合宗教帰属」という概念で分析し、彼らの根ざしている宗教伝統や宗教への帰属意識の多様性こそが、超歴史的で普遍的な宗教体験や思想の「伝道」という営為を生み出し、宗教体験に根ざした社会実践を志向させていることを示そうとした。また、宗教思想・宗教哲学の形成と、各思想家の宗教実践・信仰・宗教体験とが密接に関係していることを解明することを目指した。本研究では、綱島を慕う者たちの回覧ノートである『回覧集』を主要なテキストとして分析するとともに、綱島を慕う人々の集会である「梁川会」の全容解明のため、各地の梁川会に関する資料を現地で調査した。 2023年度は2022年度までの綱島梁川研究や宗教哲学研究を踏まえて、姉崎正治をはじめとする明治宗教哲学・宗教思想の研究へと研究を展開させることができた。2023年9月の日本宗教学会でのパネル発表では姉崎正治の宗教体験や信仰と宗教学・宗教哲学の形成との関連について発表を行った。2024年3月の宗教哲学会での口頭発表では、明治期の日本における「宗教哲学」に関する書籍の刊行状況と、最初期の著作で宗教哲学がどのように理解されていたか、その理解に特定宗教の信仰がどのように関わっていたのかを分析した。これらの研究は2024年度以降、宗教哲学の創成期(明治後期)における宗教哲学の形成に関する研究の端緒となるものであり、今後の研究の進展にとって重要な成果であると言える。 2020年からの研究を通して、宗教思想・宗教哲学の形成と、宗教体験や信仰、宗教実践との関係について、解明を進めることができた。『回覧集』の翻刻については完成させることができなかったが、今後も継続して翻刻を行い、翻刻の刊行を実現する。
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