本研究の目的は、人間の「徳」という側面をとらえ直し、その「徳」が、たとえば祈るといった宗教的行為や宗教性によって涵養され得るのかという問いを立て、それに応えることであった。「徳」に注目したのは、現代社会においていのちの尊厳や多様性に対する寛容さが課題として共有されるなか、社会のあり方に影響し合う人間のあり方を問うことの重要性を強く認識するからである。 人間は、それぞれ主体的存在として、自他のいのちを尊重してはぐくむ徳性を、いかなる内発的な性質として持ち、いかにしてそれを涵養し、体現することが可能であるのか。そしてそれは、いわゆる宗教性とどのように関わるものであるのか。 これまで、2-3世紀の古代キリスト教思想家オリゲネスに焦点を当てた研究を継続的に行ってきたが、2022年度は、その成果のひとつとして、『ことばの力-キリスト教史・神学・スピリチュアリティ』(キリスト新聞社、3月発行)に「オリゲネスとことば-神の像とそこに向かう生を求めて-」という研究を発表した。オリゲネスは、キリスト教信仰者であるとともに、学問一般や聖書について熱心に研究し、人々に講じる立場にもあった。その門下生であるグレゴリウス・タウマトゥルゴスの『謝辞』には、オリゲネスの学問的姿勢や崇高な生き方が、驚きや感謝とともに言及されている。ここに、オリゲネスの「徳」の一側面を認識することができる。本研究は、ここに表されているような彼の生き方が、聖書の「ことば」に支えられ、方向づけられていたことを明らかにした。
|