研究課題/領域番号 |
20K12822
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研究機関 | 国立民族学博物館 |
研究代表者 |
石原 和 国立民族学博物館, 人類基礎理論研究部, プロジェクト研究員 (50812038)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 新宗教 / 民間宗教者 / 講社 / 民衆宗教 / 近世近代移行期 / 如来教 / 稲荷講社 / 長澤雄楯 |
研究実績の概要 |
本研究では、幕末~明治期の新宗教運動を、組織の境界を越えて往き来する宗教者の活動に注目して再分析することで、新たな宗教史像を提起する。近年の日本宗教史の見直しは新宗教研究の成果を含んでいない。ここでは、自らの活動に公認を得ようとする段階にあった教団未満の宗教者を分析対象とし、彼らの活動とその背景となった体制を関連付けた宗教発生史という視点を持ち込むことで、宗教史の全体像の再構築を図る。 以上の目的から、まず、(1)近世との連続性を論じる前提として、近世後期の宗教をめぐる諸動向を明らかにした。その成果として、近世後期の宗教動向を宗派越境的に捉え、近世近代以降期の宗教展開を展望した単著『「ぞめき」の時空間と如来教 近世後期の救済論的展開』(法藏館、2020年8月)を刊行した。その成果を、2021年度歴史学研究会準備報告会などでも報告した。 また、近代の公認教団を中心とする体制の下、宗教者たちがさまざまな教団をわたりながら、自らの活動を確立させていく過程を明らかにした。具体的には、(2)近代の神道教団下で活動した講社の事例として、明治期の静岡県清水を基盤にした稲荷講社、神道三穂教会を取り上げ、宗教者の活動やその活動公認に関する研究を行った。その成果として、稲荷講社、神道三穂教会関連史料の目録、翻刻史料、解説論文を付した資料集『月見里神社史料・宮城島家史料目録―近代清水の神職たちと鎮魂帰神―』(日本新宗教史像の再構築:アーカイブと研究者ネットワーク整備、2020年、吉永進一・並木英子と共編)を発行した。③近代の仏教教団の下の「講社」の事例となる如来教に関する史料を見つけ、その整理に着手した。現在、写真撮影、目録化、翻刻、作成年の確定作業が終わりつつある状況である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度はCOVID-19の流行のため、国際宗教学会での発表や、大学図書館、教団での史料調査など、いくつかの研究活動の中止や延期が余儀なくされた。そのため、資料不足などの理由で、計画通り論文執筆が出来ていない。 しかし、その一方で、見込みが大きくなく、最終年度までの課題としていた近代の仏教教団下の講社活動の事例となる如来教に関する史料が未整理のまま見つかり、その整理のために時間を費やすことができた。そのため、COVID-19による論文執筆の遅れを相殺することができた。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度の研究活動にも、COVID-19の影響が想定されうる。そのため、現時点で進められる見込みのある内容を中心に研究を進める。 (1)近世後期の宗教動向に関する研究。近世後期の宗教動向について、1802年に名古屋でおこった如来教を中心にして、それと同時空間で展開した他の信仰と共振する動向や、共通の社会的基盤を明らかにする。それによって、近世近代以降期の宗教をめぐる状況を解明する。その成果は5月に行われる歴史学研究会日本近世史部会大会で報告(発表依頼あり)し、その後『歴史学研究』に論文投稿をする(執筆依頼あり)。 (2)静岡県清水で展開した月見里神社・稲荷講社を例に、近代初期の民間宗教者を支えた組織・体制に関する論文を執筆する。これまでの成果によって、講社が講社所管教会を包括することができたことは見たが、その上部組織である神道教団との関連については不十分だった。島根県で大社教での史料調査を行い、それに基づいて、神道教団-講社-講社所管教会という、組織の全体像を明らかにする。そのなかに、宗教者たちの教団越境的活動を論じる。 (3)近代如来教の宗派越境的公認獲得活動に関する研究を進める。これまでの史料整理・翻刻に基づいて、史料の解読を進める。適宜、その関係地である愛知県、東京都を中心に関連資料の調査を行う。解読にあたっては、特に如来教の有力信者、指導者たちが自らの活動公認化のために、さまざまな教団と接触を図っていたことに注目し、宗教をめぐる法制度やその地域的展開も視野に含める。その成果は宗教学会や協力者として関わっている科研による研究会「日本新宗教史像の再構築:アーカイブと研究者ネットワーク整備」で発表する。そのうえで、2022年度に予定している資料集刊行に向けた準備を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
Covid-19のため、海外学会の中止、学会のオンライン化、調査の取りやめがおこったため、次年度使用額が生じた。2021年度会計に2020年度実施予定であった調査の実施を追加する。また海外学会参加相当分については、当該学会が中止となり、当面参加の可能性が考えられないことから、2020年度の新発見の成果に基づいて、2022年度に近代如来教史料目録刊行のために用いる。
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