研究課題/領域番号 |
20K12823
|
研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所 |
研究代表者 |
牛窪 彩絢 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 文化遺産国際協力センター, アソシエイトフェロー (40847117)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 南西諸島 / 琉球 / 葬墓制 / 死生観 / 葬送儀礼 / 殯 / 風葬 / 洗骨 |
研究実績の概要 |
本研究は、土葬から風葬への変化が明確な八重山列島に注目し、考古学とは異なる宗教史学的アプローチを用いて風葬が諸島に定着する社会基盤を考察することを目指した。また、今や急速に風化しつつある風葬文化を後世に残すため、伝承の記録保存を行うことも目的とした。しかし、新型コロナウイルスの流行の影響により、当初計画していた八重山列島方面への往訪を行うことができず、フィールドデータをとることを断念せざるを得なかった。そのため、主に文献資料によって南西諸島の葬墓制史や死生観を丹念に調査することとし、その結果、概略以下のことが分かった。 1.17世紀から18世紀というのは沖縄において社会的転換期にあたり、そのことが同地の庶民における葬墓制に大きな影響を与えている。 2.琉球王朝における葬墓制は15世紀から16世紀にかけて過渡期を迎え、17世紀から18世紀にかけて確立に向かう。 3.琉球王朝において、17世紀には洗骨は次の被葬者が葬られる時に便法上行うものへと成り代わっており、葬送儀礼として重要な意味を有していたものは、「殯」の期間と風葬(シルヒラシ)であったと言える。一方、庶民においては王府・明治政府のテコ入れにより、風葬(シルヒラシ)をして洗骨するという葬送儀礼に落ち着く。 4.琉球王朝においても庶民においても、二重葬の形態を獲得して落ち着いていることから、南西諸島における葬送儀礼には「死霊」を「祖先」へ転換する構造が見られると言える。 5.洗骨改葬の習俗を取り入れる以前は単葬の社会であったと考えられ、それが二重葬へと変換する背景には何があったのか、検討を行う必要がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
研究計画当初全く予期していなかった新型コロナウイルス流行の影響により、八重山列島方面へ往訪することが叶わず、フィールドデータを集めることができなかったため。 当初計画では、①先行研究や一次資料による分析、②フィールドワークによる分析を掲げており、令和2年度は石垣島、竹富島、黒島、新城島を訪問する予定であった。しかし、これら4島を往訪することができなくなり、①の文献資料による分析に徹したが、風葬が諸島に定着する社会基盤を考察しようとする本研究は、現地における参与観察・聞取り調査によるデータに依拠する比重が大きい。また、①で得た情報の確認や仮説の検証を行う意味でも②を行うことは重要である。よって、現在までの進捗状況としては、遅れていると言わざるを得ない。
|
今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルスの流行が続く限りは、上記①の手法を続け、研究実績の概要の箇所で示した情報の精査、仮説の検証を続ける。また、新型コロナウイルス感染予防対策を行った範囲内ではあるが、研究者間の交流や議論を行い、情報や仮説をより洗練させていく。新型コロナウイルスの流行が落ち着いた頃合いを見計らって、その時点でフィールドワークが可能な八重山列島内の地域を選び、①で得た情報、仮説を現地データとすり合わせる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの流行により、フィールドワークを行う予定で計上した旅費の予算を全く使うことができなかった。また、学会発表や研究会なども新型コロナウイルスの流行によりオンライン開催に変更となり、当該発表にかかる予定であった経費もかからなくなった。更に、沖縄県教育庁文化財課資料編集班の厚意により、必要図書の無償提供を受けたことにより、当初予定していたよりも図書の購入費がかからなかった。 新型コロナウイルスの流行が続く限りは旅費の執行が困難となるため、図書の購入、研究者間の交流費に充て、新型コロナウイルスの流行が落ち着いた頃合いを見計らってフィールドワークを実施することで、旅費として使用する計画である。
|