研究課題/領域番号 |
20K12823
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所 |
研究代表者 |
牛窪 彩絢 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 文化遺産国際協力センター, アソシエイトフェロー (40847117)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 南西諸島 / 琉球 / 葬墓制 / 死生観 / 葬送儀礼 / 殯 / 風葬 / 洗骨 |
研究実績の概要 |
本研究は、土葬から風葬への変化が明確な八重山列島に注目し、考古学とは異なる宗教史学的アプローチを用いて風葬が諸島に定着する社会基盤や歴史を考察することを目指した。また、今や急速に風化しつつある風葬文化を後世に残すため、伝承の記録保存を行うことも目的とした。ただ、今年度は8月から約半年間、出産と育児により研究を中断することとなったため、現地にてフィールドデータをとることは行わず、主に昨年度の研究成果を学会等で発表し、研究者より情報を集めることや、そこで得た知見を机上にて検証することに時間を費やした。その結果、概略以下のことがわかった。
1. 18世紀中頃、琉球王朝の葬墓制は急激に儒教化する。その結果、風葬(シルヒラシ)する前に、遺体を一定期間安置する「殯」の習俗が王朝において確立する。 2. 庶民におけるトギの習俗と王朝における「殯」の習俗の相関性については慎重に検討すべきである。 3. 琉球と中国南部の葬墓制の影響関係だけでなく、朝鮮半島からの影響について更に精査すべきである。 4. 木槨、木棺を伴う墓についての沖縄葬墓制上の位置づけが不明確である。また、 八重山列島の古墓には石棺を伴う個人墓が幾例か見られるが、石棺を木棺・厨子と同類のものとすべきか、棺箱の類とすべきか、用途について検証の余地がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルスの影響や、自身の出産・育児による研究中断により、現地訪問を計画通りに行うことができず、フィールドデータをとることが難しかったため研究はやや遅れている。ただ、本研究は、歴史的経緯の把握など一次資料や二次資料に負う部分も多いため、文献資料の収集や読み込みができた点では進展した。また、学会や研究会での発表をとおして、歴史学の研究者より確認すべき具体的な一次資料を紹介してもらったため、早急にとりかかるべき課題も明白となっている点で、研究は進展している。
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今後の研究の推進方策 |
出産・育児による研究中断から再開直後の大型連休期間中に八重山諸島(主に西表島)と沖縄本島に赴き、現地の古墓を巡検し、喪屋、木槨、木棺を伴う葬地に関する歴史や事例の情報収集を行う予定である。また、那覇での研究会に出席し、沖縄在住の研究者との交流をとおし、沖縄葬墓制の歴史や朝鮮半島との関係についての情報収集を行う。 東京在住の期間は、現地で収集した情報を文献資料等により確認、深める作業を行い、しかるべく学会での発表報告、学術誌への論文投稿を行いつつ、他の研究者からの知見を収集する。また、一次資料の洗い出し作業に注力する。 今年度11月頃に、沖縄県南部の洗骨儀礼見学のため再度現地へ赴き、参与観察・聞き取り調査によって死生観についての情報収集を行う予定である。そこで集めたデータを基に、東京において宗教学的理論と掛け合わせることで、儀礼の分析を行っていく。 以上のように、現地での調査と文献での調査双方で研究をブラッシュアップさせていき、研究者との交流を通して更に研究を新鋭化させるべく活動していく。このような活動を通し、今年度、具体的に明らかにしたい事柄としては、以下3つを掲げている。 ①朝鮮半島と沖縄の葬墓制の歴史的関係性、②風葬・洗骨に付随する沖縄の人々の死生観、③木槨・喪屋を伴う墓についての沖縄葬墓制上の位置づけ
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度は新型コロナウイルス蔓延の影響により現地調査を行うことができず、昨年度は出産・育児による研究中断のため研究活動を行うことができなかったため、期間延長を申請していることから次年度使用額が生じた。 使用計画としては、研究再開後、直ちに八重山諸島(主に西表島)と沖縄本島に赴き、現地の古墓や王陵を巡検する予定であるため、その旅費に充てる。また、今年度再度の沖縄訪問を行う予定であるため、その旅費として使用する。また、東京在住中には一次資料や二次資料を読み込む必要があるため、その図書購入費や一次資料(漢文)の翻刻代等に使用する予定である。
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