研究課題/領域番号 |
20K12823
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所 |
研究代表者 |
牛窪 彩絢 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 文化遺産国際協力センター, アソシエイトフェロー (40847117)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 南西諸島 / 琉球 / 葬墓制 / 死生観 / 葬送儀礼 / 殯 / 風葬 / 洗骨 |
研究実績の概要 |
本研究は、土葬から風葬への変化が明確な八重山列島に注目し、考古学とは異なる宗教史学的アプローチを用いて風葬が諸島に定着する社会基盤や歴史を考察することを目指した。また、今や急速に風化しつつある風葬文化を後世に残すため、伝承の記録保存を行うことも目的とした。昨年度課題として挙げた、【木槨を伴う墓についての沖縄葬墓制上の位置づけの検討を行うこと】、【風葬・洗骨に付随する沖縄の人々の死生観の検討を行うこと】の2つを実施することを目的に、2022年4月29日から5月8日まで沖縄本島、石垣島、西表島を訪問した。主に、現地の近世墓や現代墓を巡検し、地元の人々に聞き取り調査を行った。また、沖縄県立美術館・博物館所蔵の沖縄全域における墓地基本計画資料の閲覧・複写を行うとともに、地元研究者と意見交換を行った。その結果、概略以下のことがわかった。 1.木槨を伴う墓については未だ事例があまりに少ないが、中には厨子が入れられていることが多いため、骨化を待つための一次葬の場所とは考えづらい。 2.王族の墓である浦添ようどれや、百按司墓に建っていたとされる木槨の類と同列に扱ってよいか、喪屋と木槨の違いも含め検討の余地がある。 3.王族における木槨を伴う墓では、儒教との関係や朝鮮半島からの影響などが考えられ得るが、庶民における木槨を伴う墓においてはその可能性が低そうであり、近世から近代にかけての洞穴墓の亜型と捉えた方が良さそうである。 4.西表島の火葬場は数年前に閉鎖し、現在は死者が出た場合は石垣島で火葬される。また、箱型の墓の上に石塔を建てる墓や、納骨堂が見られる等、従来の葬墓制は変化し、本土式の墓の影響が及んでいる。 5.風葬・洗骨を行う習俗は石垣島、西表島においても過去の慣習と受け止められており、馴染みのないものとなっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は、第二子の妊娠と産休により、現地訪問やフィールドワークを計画通りに行うことができなかったため、研究はやや遅れている。ただ、本研究は、歴史的経緯の把握など一次資料や二次資料に負う部分も多いため、文献資料の収集や読み込みができた点では進展した。また、学会や研究会での発表をとおして、琉球王朝における「殯」(本葬の前に遺体を一定期間安置する習俗)についての情報・問題の整理、成立背景や儒教との関係についての検討が深まった点で、研究は進展した。
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今後の研究の推進方策 |
産休・育休より復帰した9月の大型連休期間に八重山諸島(主に与那国島)に赴き、現地の古墓を巡検するとともに、沖縄の人々の死生観の検討を行うための聞き取り調査を実施する。また、10月に沖縄本島糸満市周辺で実施される洗骨儀礼の参与観察のため、現地に赴く予定である。東京在住の期間は、現地にて収集した情報を文化人類学・宗教社会学・死生学的理論によって分析し、その成果をしかるべき学会で報告しつつ、学術誌への論文投稿を行う。そこで得たフィードバックをもとに、今年度内にもう一度現地に赴き、文献での理論と往還することで、研究をブラッシュアップさせていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度は新型コロナウイルス蔓延の影響により、2年度は出産・育児による研究中断のため、昨年度は第二子妊娠・産休のため、現地調査を計画通りに実施することができず、期間延長を申請していることから次年度使用額が生じた。 使用計画としては、研究再開後、3回に渡り八重山諸島(主に与那国島)と沖縄本島(糸満市周辺)に赴き、現地の古墓や王陵の巡検、儀礼の参与観察や聞き取り調査を行う予定であるため、その旅費に充てる。また、東京在住中には一次資料や二次資料を読み込む必要があるため、その図書購入費や一次資料(漢文)の翻刻代等に使用する予定である。
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