研究課題/領域番号 |
20K12827
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
北井 聡子 大阪大学, 言語文化研究科(言語文化専攻), 講師 (40848727)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ロシア・ソ連文化 / ジェンダー / セクシュアリティ / フェミニズム / アレクサンドラ・コロンタイ |
研究実績の概要 |
2021年度は、革命期から1920年代前半におけるロシア・ソ連のジェンダー/セクシュアリティ表象について、特に次の2つのテーマを中心に取り組んだ。 一つ目は、小説『何をなすべきか』とそのインパクトである。「革命のバイブル」の異名をもつこの小説は、男女平等の理念に貫かれ、またヒロインの自立が描かれていることから、革命期の女性解放思想に決定的な影響を与えてきたものである。しかし近年の研究では、ヒロインを媒介とした夫と親友の間のホモソーシャルな絆が描かれていることが指摘され、またこの3者の関係を、シンボリストたちの間で当時流行していた三者婚との関連において考察する研究もある。本研究では、先行研究で示されたこれらの見解をさらに押し進め、この物語には男性間のホモソーシャルな絆よりも、むしろ明らかなホモセクシュアルな欲望が存在していることを指摘し、また将来の進化した人間においては、バイセクシャルな欲望によって結ばれる集団婚の実現が示唆されている、という結論に至った。研究成果は論考「嫉妬と集団―小説『何をなすべきか』における新しい家族の模索―」として発表している。またこの論考では、バイセクシュアルな神話的モチーフが、現代に至るまで様々な文脈において反復されていることも指摘した。 二つ目は、フェミニストの革命家アレクサンドラ・コロンタイ研究である。2021年度は、彼女の論文「労働者反対派」(1921)と小説『偉大なる恋』(1922)を「メロドラマ的想像力」の産物として読み解いた。この時期にコロンタイは政治闘争に破れ、党やレーニンとのトラウマ的な決別を経験しているが、本研究では、メロドラマが有する家父長制を維持する「安全弁」としての機能が、コロンタイのトラウマからの回復(喪のプロセス)において効果的に作動していることを指摘した。この研究成果は、8月の国際学会ICCEESで口頭発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は、昨年度の報告書の計画通り1920年代初期のジェンダー・シェクシュアリティの諸相を考察し、論考と口頭発表という形で一定の成果を達成できたことから、「概ね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
申請時の計画では、2022年度は、1930年から1936年の期間のジェンダー/セクシュアリティ表象を中心に研究する予定であった。しかし、ロシアのウクライナ侵攻に伴い情勢の悪化し、ロシア国内での資料収集が困難なため、手持ちの資料を利用し、引き続き革命期から1920年代の問題を中心に扱う予定である。また長期休暇を利用し欧米圏での調査を行いたい。その他、8月に開催される研究会や秋の学会等で研究発表を行い、そこで得られたコメントをフィードバックしつつ、年度末までに論考として発表する予定。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナの影響で、2021年度はロシアでの調査ができなかったことや、国内研究会もすべてオンライン開催となったため、交通費・渡航費に予算が使われず次年度使用額が生じた。 2022年度は、海外での資料調査や国内外の学会・研究会参加のための渡航費、書籍の購入、ロシア語・英語論文作成のための校閲費、ロシア語のマニュスクリプトの文字起こしに協力してくれるネイティヴのアルバイト雇用に予算をあてる予定。
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