研究課題/領域番号 |
20K12829
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
小田 透 静岡県立大学, その他部局等, 特任講師 (50839058)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | クロポトキン / アナキズム / 翻訳 / 相互扶助 / 大杉栄 |
研究実績の概要 |
「翻訳」と「横断」というキーワードを手がかりに、19世紀末から20世紀初頭における最大のアナキズム著作家であるP・クロポトキン(1842-1921)の多岐にわたるテクストとその影響圏を精緻に読解することを目指す本研究の昨年度の成果は、一昨年度の研究成果をもとにした4つの国際学会での英語発表と、1つの招待講演(日本語)である。
招待講演では、昨年度、表象文化論学会のニューズレター『REPRE』Vol. 41(2021年3月)に発表した研究のノート「グレーバーとクロポトキンをつなぐもの──相互扶助の倫理的感性」を出発点としながら、コロナ禍におけるさまざまな相互扶助の実践に光を当てる一方で、相互扶助の歴史的意義だけではなく、来るべき未来における相互扶助の展望について、福祉国家や資本主義との関係を念頭に置いた議論を展開した。
国際学会での発表では、日本におけるクロポトキン受容において多大な貢献をした大杉栄の翻訳活動に焦点を当て、春陽堂の『クロポトキン全集』の射程を検討する一方で、大杉のアナキズム論をたどりながら、アナキズムの翻訳は、ホルヘ・ルイス・ボルヘスが「『ドン・キホーテ』の著者、ピエール・メナール」で示唆していることに似ているのではないか、という仮説を提出した。すなわち、アナキズムの「翻訳」――字義的な意味でも、比喩的な意味でも――において前景化されるのは、翻訳される内容の新規さというよりも、ある特定の歴史的時間、ある特定の地理的空間における、ある種の真実の(再)発見=(追)体験ではないか、という仮説である。また、クロポトキンの同時代人であるフランスの自然主義小説家エミール・ゾラの『ルーゴン・マッカール叢書』における友愛の主題をたどることで、19世紀末から20世紀初頭における、相互扶助のアクチュアリティを論証しようと試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
系譜学的な思想研究をその主要な領域とし、テクストの解釈学的精読をその主要な方法論とする本研究は、テクストの読解を主軸に据えるものであり、昨年度は、一昨年度に引き続き、クロポトキンの出版テクストの再読と精読に取り組む一方で、クロポトキン研究やアナキズム研究という2次資料の精査を進めた。クロポトキンの邦訳にも着手した。ただ、コロナ禍にともなう教育関連業務の負担の増加にともない、予定よりもやや遅れている。また、パンデミックのなか、海外渡航は依然として困難であり、海外のアーカイブ訪問は延期を余儀なくされている。
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今後の研究の推進方策 |
パンデミックによる海外渡航の困難さゆえに、海外のアーカイブ訪問は延期を余儀なくされている。クロポトキンの未刊行資料やアナキズムを含む社会思想の資料を求めてモスクワやアムステルダムに赴くことが、2‐3年目の研究計画の一部にあったが、現状では未定のままである。そのような世界情勢を踏まえつつ、今年度は、再読と精読を継続する一方で、クロポトキンの邦訳プロジェクトを進めていく。学会発表、論文投稿にも、積極的に取り組んでいく。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のなか、当初の予定であった海外での調査研究を断念することを変更を余儀なくされたため、微小ながら次年度使用額が生じた。この剰余資金については、本年度の書籍購入費等に上乗せする予定である。
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