P・クロポトキンの主著にして、彼の領域横断的で翻訳的な知の結節点ともいうべき『相互扶助論』(1902)の新訳の刊行が、本研究の最大の成果である。『相互扶助論』は、そのような横断性や翻訳性ゆえに、依然として批判的校訂版と言えるものが存在しないテクストだが、1902年初版、1904年改訂版、1914年廉価版を比較検討するとともに、デジタルアーカイブを駆使し、脚注の参考文献を精査することで、学術的に精度の高い翻訳を作成することができた。また、『相互扶助論』の同時代的な影響や、その現代的な意義、または、そこから派生した問題をめぐって、6つの国際学会で発表することができた。
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