最終年度は第一次世界大戦とオペレッタについての研究を深め、研究発表を行い、それにもとづく論文を投稿した。その研究では、大戦中のオペレッタにおいて「平時」の軍事演習から「有事」の召集へと意味が変容したこと、現実とは裏腹にハプスブルク帝国のユートピアが誇大化していったことを明らかにした。さらに、大戦後のオペレッタにおける帝国へのノスタルジーや新世界アメリカと旧世界ヨーロッパの文化的対立について分析した。本論文は来年度中に刊行される予定である。 また、初期ヨーロッパ映画におけるオペラ・オペレッタ・バレエのインターテクスチュアリティに注目し、研究発表を行った。20世紀初頭のヨーロッパ無声映画は、ジャンル・人材・題材などの観点から、オペラやバレエ、オペレッタをはじめとする舞台芸術と密接な影響関係を展開してきた。ジャンルとしては、フランスやドイツ語圏では流行歌やオペレッタを取り入れた初期サウンド映画であるフォノセーヌやトンビルダーが一時的に大量に製作され、これは後のトーキー期のオペレッタ映画へとつながる。こうした映画界とオペラ・オペレッタ・バレエ界の人材の流動性やジャンル越境の豊かさについて研究を実施した。 研究期間全体を通じて、オペレッタにみられる社会・政治諷刺における創作側と聴衆側の相互作用、オペレッタから演劇や映画等へのジャンルを超えた影響、ドイツ語圏内・圏外での国境を越えた人材的・芸術的・技術的交流の影響について研究を深めた。コロナ禍で研究が中断した時期もあるが、社会的・政治的・文化的パロディに満ちたオペレッタが激動の戦間期においてどのように諷刺を機能させていたのか、生きた舞台上で機能する諷刺によって作品をどのように自己反省的に作り変えてきたのかを明らかにし、大衆の代弁者としてオペレッタが果たした役割を解明することができた。
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