2023年度は、I. カントの『判断力批判』(1790)の考察を通じてこれまでに解明してきた種々の自然と不快・醜さとの対応関係を示すと共に、別種の醜さどうしの関係性を明らかにすることで、「自然の醜さ」に関する美学理論の体系化を試みた。まずは、どのタイプの自然にどの種類の不快・醜さが可能であるのか、また適合するのかを検討し、自然と不快・醜さとの対応関係を考察した。つぎに、不快一般のあり方の基軸となっている構想力の働き、および、構想力と他の能力(感官、悟性、理性)との連関に着目することで、別種の醜さどうしであっても関係するのか否か、関係する場合には、そこに連続性、段階性、階級性が存在するのか否かを検討した。 本来であれば、こうした研究によって、「自然の醜さ」の美学理論を体系化し、その醜さの解明と分類という本研究全体の目的を遂行する予定であった。しかしながら、体系化に関して、体系を体系たらしめる原理を確定することができず、原理の問題をこれからの発展的な問題にせざるをえなかった。また、より発展的な課題として、醜さの美学理論が持つ意味を考える必要が生じた。つまり、醜さの美学理論が体系化された際に、その理論自体がどのような効果を持つのか、あるいは、美しさの理論と比較においていかなる位置を持ち、いかなる役割を果たすのか、といった問いの探究である。これらの発展的問題は、次の研究課題として引き継がれることとなった。 また、論文や学会発表などの客観的な成果を年度内に発表できなかった点も悔やまれる。しかし、成果物については、『醜さの美学』という単著の執筆がほとんど完了しており、2024年度内の出版を目指している。
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