研究課題/領域番号 |
20K12845
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
川本 徹 名古屋市立大学, 大学院人間文化研究科, 准教授 (10772527)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 映画 / 驚異 / 視覚文化 / 実写 / アニメーション |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、〈驚異〉をめぐるアメリカ視覚文化史を、文学から映画に軸足を移しつつ、従前よりも包括的に再構築することにある。二年目にあたる本年度は、前年度に引き続き先行研究の十全な把握につとめるとともに、多様なジャンルの映像作品を分析の俎上にのせ、デジタル革命以前と以後で、映像のもたらす〈驚異〉がどのように変質したかという点を探究した。前年度は主としてマジックを主題とする作品をとりあげたが、今年度は恐竜を描く作品に注目をむけた。初期アニメーションの代表作『恐竜ガーティ』からデジタル革命の象徴的作品『ジュラシック・パーク』まで、これまでアメリカ映画史上の数多くの重要作が、現在この世に存在しない恐竜の表象に取り組み、映像のスペクタクルの限界を拡張してきた。こうした問題関心のもと、昨年度課題として残った実写映画とアニメーションの起源も再考できたことは、今年度の大きな成果と言える。この研究成果の一部は「恐竜は西部劇の夢を見るか? 古生物とアメリカ映像文化」と題した論文にまとめ、名古屋市立大学大学院人間文化研究科『人間文化研究』37号に発表した。また、〈驚異〉に受動的かつ感覚的な経験と能動的かつ知的な経験の二種類があるとすれば、ここまでのリサーチは前者を中心とするものであったが、後者についても探査を行うため、スペクタクルを重視するハリウッド映画の対極に位置する、スロウ・シネマと呼ばれる潮流についての分析も開始した。これに関連するワークショップを日本アメリカ文学会中部支部で実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナ感染症の影響により、前年度と同様に海外リサーチは行えなかったが、代わりに三年目以降に予定していた課題(デジタル革命以後の映画作品がもたらす〈驚異〉の考察)に力を入れ、研究実績の概要に記載のとおり、ある程度の成果を出すことができた。また、もともとミュージカルとSFを考察対象のジャンルとして掲げていたが、この二年間でその両方をカヴァーすることができた。SFと〈驚異〉の関係については考察すべき点がまだ多く残されており、次年度以降もリサーチを続ける。一方で、文学と映画のメディア論的比較については、まだ十分な成果を出すことができていない。今後、アダプテーション研究の応用も視野に入れつつ、より積極的に取り組んでいきたい。
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今後の研究の推進方策 |
ここまでの研究をさらに発展させるために、次年度は以下の三点の考察に力を入れたいと考えている。第一に、今年度、SFの研究を進める中で前景にせり出した、テクノロジーと〈驚異〉の関係についての考察である。特に80年代以降のSFに照準を絞る予定である。第二に、映画館と〈驚異〉の関係についての考察である。ここまでの研究では、映画作品についての研究が主であったが、映画を観る環境についても研究を進めたい。現地調査を行うか、映画館関連の資料の分析を行う。第三に、文学と映画の比較考察である。小説のアダプテーション映画を中心に検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度と同様、新型コロナウィルス感染症の拡大の影響で、海外リサーチを実施せず、代わりに一次資料、二次資料の広範な渉猟を行ったが、それでも未使用額が生じた。今後の研究の推進方策に記したとおり、次年度はテクノロジー、映画館、文学と映画の比較等をキーワードに研究を行う予定であり、これに関連する資料の購入や、可能であれば現地調査に費用をあてる予定である。
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