研究課題/領域番号 |
20K12847
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研究機関 | 沖縄県立芸術大学 |
研究代表者 |
松本 麻耶子 (古謝麻耶子) 沖縄県立芸術大学, 付置研究所, 研究員 (60835734)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 多言語話者 / ポピュラー音楽 / 言語継承 / モザンビーク |
研究実績の概要 |
本研究は、モザンビークの人々の実生活における使用言語、アイデンティティの複数性のあり様と文化継承のダイナミズムを、音楽実践の場に着眼して明らかにしようとするものである。本年度は、予定していた現地調査を行うことができなかったが、以下の研究活動を展開した。 ①文献調査:モザンビークの言語政策や文化政策に関する文献、言語に関する統計資料を精読し、現在のモザンビークにおける多言語・多文化状況について整理した。また、モザンビークのポピュラー音楽の現在の様相とこれまでの展開に関する情報を集めた。 ②遠隔調査:言語/文化的バックグラウンドの異なる7人のミュージシャンにメッセンジャーやWhatAppなどのSNSを通して、インタビューを行った。具体的には、歌の創作に使用する言語や音楽スタイルに関する質問を行うとともに、楽曲をいくつか提供してもらった。過去に既にインタビューや演奏映像の撮影を行っているミュージシャンに関しては、インタビュー映像からトランスクリプトを作成し、それらを共有しながら対話を重ねていった。 ③研究成果の発表:①、②から、多くの現地ミュージシャンが日常では複数の言語を話すにも関わらず、歌には母語を用いる頻度が高いこと、音楽実践の場において既存の音楽ジャンルではなく、個々の音楽的・文化的背景を意識しており、複数の音楽的要素を混合することで独自のスタイルを生み出していることなどが明らかになった。この調査結果の一部を東洋音楽学会沖縄支部例会でオンライン発表するとともに、同内容を沖縄県立芸術大学音楽学研究誌『ムーサ』にまとめた。オンライン研究発表では、日本語字幕をつけたインタビュー映像を多く用いたため、研究発表のアーカイヴ映像を説明を加えながらインフォーマントに見てもらい、さらなる論議を交わすことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウィルスの感染拡大により現地調査を行うことができず、今年度収集した情報は研究計画時に考えていたものよりも限定的なものとなった。しかし、遠隔調査により、現地ミュージシャンの個別具体的な音楽実践を詳細に明らかにすることができた。インタビュー映像に字幕をつけることで、日本・モザンビーク・ポルトガルの3国の研究者やアーティストと映像資料を共有し、議論することができた。ポルトガルのオンライン研究者コミュニティに参加するなどネットワーキングもある程度進めることができた。また、現地ミュージシャンとのやり取りを通して、新型コロナウィルスの流行について歌った現地語の歌を紹介してもらうなど、現在の状況の中での活動を知ることができたことも有益であったし、本研究に新たな視座をもたらした。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、現地語を用いた歌の創作過程や共有、広がりに着目しながら言語的・文化的多様性の維持を明らかにすることを目的としているため、歌が生まれる現場での参与観察を行うことが最も重要だが、新型コロナウィルスの影響により、今年度も渡航が難しいものと思われる。できることから着実に研究を進めたい。2021年度は、新型コロナウィルスの流行という状況下で、どのような歌が生み出されているのかにも着目する。そのために、できる限りSNSなどを通して現地のミュージシャンや研究者、その他の人々と繋がりを持ち、新型コロナウィルスの流行に関連する歌も収集していきたい。生み出された歌が、どのように広がっていくのかにも着目する。 また、今年度は楽曲の詳細な分析を行うとともに、「伝統音楽を土台に楽曲を創作する」という現地ミュージシャンの音楽実践を現地語の音楽用語にも着目しながらできるだけ詳細に明らかにしていきたい。 遠隔調査を円滑に進めるために、調査地に住む研究者あるいはミュージシャンに研究協力を依頼し進めていく予定である。新型コロナウィルスの流行状況を慎重に見極めながら、臨機応変に研究方法を検討しつつ進めていく。可能であれば2月に現地調査を行いたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウィルスの流行により、当初計画していたフィールド調査を行うことができず旅費の支出がゼロだったため、次年度使用額が生じた。2021年度に渡航可能な状況となった場合は、1~2回のフィールド調査を行いたい。難しい場合は、今年度のように遠隔での調査を進めるが、その場合は、現地の研究者やアーティストにインタビューや芸能の映像撮影などの代行を依頼したいと考えている。その際は研究協力者に謝金を支払う。
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