研究課題/領域番号 |
20K12847
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研究機関 | 沖縄県立芸術大学 |
研究代表者 |
松本 麻耶子 (古謝麻耶子) 沖縄県立芸術大学, 芸術文化研究所, 研究員 (60835734)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | モザンビーク / アフリカ音楽 / 多言語話者 / 民族音楽学 / 多言語社会 |
研究実績の概要 |
多言語国家モザンビークの首都マプト市には全国各地から多様なエスニック集団の人々が集まってコミュニティを形成しており、それぞれのコミュニティで緩やかな輪郭のエスニック・アイデンティティが共有され次世代に引き継がれている。2022年度は、特に首都マプト市のシュワボ人コミュニティとショピ人コミュニティに着目しながら、日常的に使用する言語やアイデンティティ意識に関するフィールド調査を行った。また、現地語の歌、あるいは伝統芸能の音楽様式を土台とした歌を発信するアーティストがどのような意識で創作や表現を行っているのか、そしてそれらの歌がどのように受容され共有されているのか、それぞれのコミュニティでインタビューを行うとともにその影響力について現地の人々と議論を深めた。シュワボ人コミュニティでは、カトリック教会内にシュワボ人の組織を結成し定期的に集う傾向が見られたため、いくつかの地域のカトリック教会を訪れ、それぞれのシュワボ人組織が結成された背景やシュワボ語の歌に関する情報を収集した。カトリック教会で結成されたシュワボ人組織に関する調査結果の一部を沖縄県立芸術大学の学内誌に投稿した。 また、本研究は、モザンビークの人々の「伝統」意識、アイデンティティ表現の重層性、また、他地域の民族の文化に対する距離の取り方などにも着目している。アーティストが創作の際に「伝統」をどのように捉えているのか、また「歌」や「曲」の輪郭をどのように描いているのかについてインタビューを行うとともに、申請者は現地アーティストと協働で音楽創作を行いながら「伝統」に根ざした創作が意味するものや文化継承について議論を行った。2月に現地アーティストと行った音楽創作の一部は、インターネット上で公開している。アーティストへのインタビュー映像も現地の人々と共有できるように、現在準備作業を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度はモザンビークでのフィールド調査は集中的に実施することができたため、予定以上の成果が得られた。特に、シュワボ人コミュニティにおける現地語の歌の継承と創作に関しては多くの情報を得ることができた。また、モザンビーク滞在時に申請者と同じような問題意識を持つアーティストや研究者と出会い交流できたこと、現地のアーティストと協働で音楽創作を行いながら言語や歌に関する意識にアプローチできたことも大きな収穫であった。現地の研究者やアーティストとのネットワークづくりの重要性も確認することができた。研究成果の発信は今年度の大きな課題である。今年度の8月に補足的な調査を行い、成果を取りまとめたい。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は以下の活動を行う。 1)引き続きモザンビークでフィールド調査を行う。2)モザンビーク、沖縄の研究者やアーティストとともに言語・文化継承・音楽創作をテーマにした研究会を開く(11月に沖縄で開催予定)。3)現地語の歌に関するWebサイトあるいは出版物を作成する(日本語、ポルトガル語で作成)。4)研究成果をまとめて学会発表、論文執筆を行う。
2)を開催する理由 1年目と2年目はコロナ禍で現地フィールド調査ができなかったため、モザンビークのみに焦点を当てるのではなく、沖縄の言語状況と音楽実践に関する調査も同時に進めていた。また、2022年度のモザンビークでのフィールド調査においては、申請者が言語に関する研究を行う動機や日本の言語状況についてインフォーマントから問われたり質問を受ける場面も多く、その際は、申請者の出身地である沖縄における言語継承の問題などについて積極的に共有するようにした。そうした申請者のバックグラウンドや問題意識を現地の人と共有するという行為が、本研究の方向性にも影響を与えており、考察の際の新たな観点となっているため、2023年度はモザンビーと沖縄の状況をクロスさせながら研究者やアーティストと言語や音楽について議論する場を設けたいと考えた。研究会は11月に沖縄で開催予定。
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次年度使用額が生じた理由 |
1年目と2年目に想定していたモザンビークでのフィールド調査がコロナ禍で実施不可能であったため、旅費として想定していた予算を使用することができなかった。研究も当初の予定通りには進んでいない。申請者は研究期間の延長を行なっており、2023年度には2回の現地フィールド調査を予定している。
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