研究課題/領域番号 |
20K12850
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
川崎 佳哉 早稲田大学, 坪内博士記念演劇博物館, 助教 (50801792)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 一人称映画 / 自作自演 / エッセイ映画 |
研究実績の概要 |
2023年度は、文献精査・映像分析を中心とする研究を進めつつ、本研究に新たな方向性を見出すことができたと考えている。本研究は、映画監督が被写体を兼ねる実践を「一人称映画」、「自作自演映画」として研究してきた。こうした実践は、フィクション映画に関してはほとんど論じられてこなかったが、ドキュメンタリー映画や実験映画ではしばしば注目されてきた。映画研究においてそれらの作品は、「エッセイ映画」と呼ばれ、英米圏を中心に研究が進められている。そこで2023年度は、(ドキュメンタリー映画や実験映画だけではなく)フィクション映画についても「エッセイ映画」という概念を適用し、それらの作品を「エッセイ」という観点から論じるための理論的考察を進めた。「エッセイ映画」についてはそのように括られる作品群や文献を初年度に一通り調査したが、「エッセイ」とフィクションを結びつけるための理論的な基盤を形成することができていないままだった。2023年度は、あらためてフィクション映画を監督の個人的な思索が展開された「エッセイ映画」として論じる可能性を探り、本研究がとりわけ注目してきたオーソン・ウェルズやデニス・ホッパーといった映画作家、そして1970年代以降におけるアメリカのインディペンデント映画監督たちの作品を分析した。この作業によって、本研究がもつ大きな意義があらためて確認できた。たとえば、フィクションとしては失敗作とみなされてきた映画であるとしても、それを監督(作家)の思索が展開された「エッセイ」として見ることで、それまでとは異なる基準からその作品の価値を発見できるとすれば、これまで記述されてきた映画史を書き換えることすら可能かもしれない。このような観点に立ち、「エッセイ映画」という概念によって作品を論じる・評価するための新たな基準を検討することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究に新たな方向性を見つけることができたものの、それらの成果を発表することができなかったため、全体としてやや遅れていると言わざるを得ない。しかし、文献精査と映像分析は順調に進めており、本研究が進む方向性はこれまで以上にはっきりとしてきたため、研究自体に大きな問題は生じていない。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となるため、引き続き文献精査・映像分析を進めつつ、これまでの成果を発表する予定である。すでに、2024年6月に開催される日本映像学会第50回全国大会にエントリーし、デニス・ホッパー監督の『ラストムービー』(1971年)について報告することが決定している。順調にいけば、そこでの報告内容を論文として執筆・投稿することを考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症流行による社会的な混乱は落ち着いたものの、本研究は初年度(2020年度)から計画が大きく変更され続けてきたため、そのズレが次年度使用額として生じたと考えている。次年度使用額は、文献と映像資料の購入、および海外での資料調査のための旅費として使用する予定である。
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